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05/03/19 井上 ひさし「不忠臣蔵」(その1)

 季節はずれの話題です。(書き込んでおりましたら少し長くなりそうなので数回に分けて書き込みます)

 前(04/10/26 無線綴)に大阪梅 田 の「古書店は大阪駅前ビル付近 に数店と、地下の阪神百貨店前にある萬字屋等、あとは阪急カッパ横丁」にあると書きましたが、先日「日本の古本屋」で欲しい本を検索しました ら、梅田の大阪駅前第三ビルB2の古書店街にあるお店に在庫があったので、連絡して直接買いに行きました。
 場所は、大阪駅前第三ビルB2の東のはずれに4、5店の古書店が並んでいました。ブラブラと眺めていたら井上ひさしさんの「不忠臣蔵」という本を見つけて購入しました。(税込み315円也)

 井上ひさしさんは好きな作家の一人で、今までに「花石物語」「吉里吉里人」「東京セブンローズ」「父と暮せば」等を読んできました。
 「父と暮せば」は、宮沢りえさんが好演だった映画「父 と暮らせば」の原作 です。
 追々と、紹介していきたいと思いますが、一気に読ませる井上ひさしさんの文章に改めて感動しまして今回は「不忠臣蔵」を紹介します。

 元禄年間に発生した赤穂浪士討ち入り事件を題材にした物語(芝居、小説、、、)は歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」を初めとして枚挙に暇がありません。

 内匠頭の刃傷事件、切腹と浅野家の大変事に、神文(約束を破れば罰を受けることを神仏に誓う文書)を書き、大石内蔵助に同盟を誓った藩士は130余名だ と言われています。
 1702(元禄15)年12月15日未明に吉良邸へ討ち入ったのは47名でした。

 この物語は、討ち入りに参加できなかった(或いはしなかった)元赤穂藩の浪人の内の19人の、それぞれの生き方を一話完結の形で書かれています。 全編関係者の話し言葉で進んでいきます。(朗読劇 として俳優座で舞台化されています。俳優座朗読劇「不忠臣蔵」)
 蛇足のようですが語り手、聞き手、その舞台を注記してみました。

小納戸 役・中村清右衛門
 ◇語り手:江戸・神田明神下の一膳めし屋「越前屋」の亭主・定七
 ◇聞き手:大工の熊さん、左官の六さん
 ◇場所:「越前屋」の店内
 念者(ねんじゃ)仲間であった磯貝十郎左右衛門の切腹の介錯をしたという、肥後細川家小姓組吉富五左衛門と言う侍が、討ち入りに加わらなかったのは卑 怯、成敗すると清右衛門の道場に訪ねてきた。

 清右衛門は、内匠頭が何故突かずに振りかぶって切りつけたかが疑問であった。殺すつもりなら突くべきだったと。
 上野介への深い遺恨はなかったのではないか、前日には饗応の能が長時間演じられていて音曲嫌いの内匠頭には辛いことであった、癪もちでもあった、前日の 夕 食も当日の朝食も摂っていなかった、このようなことから、突発的に逆上して切りつけたのではないかと思うようになってきた。

 討ち入りの日が決まった時、内蔵助に疑問を投げかけたが答えはなく「討ち損じた時の二陣に残れ」と言われ討ち入りには加わらなかった。

 この章では、切腹の作法が詳しくかかれいます。また、念者とは同性愛者のことのようです。

江戸留 書役・岡田利右衛門
 ◇語り手:浅野内匠頭の凶行を制止した直参旗本・梶川与惣兵衛
 ◇聞き手:織田刈右衛門(岡田利右衛門)
 ◇場所:梶川与惣兵衛屋敷の物書部屋
 内匠頭の凶行を止めた梶川与惣兵衛は、何故止めたかと世間の非難も大きかった。また、元赤穂の浪人たちからは上野介の次には梶川与惣兵衛を討つべしと恨 みをかっていた。

 与惣兵衛は、内匠頭の強行を止めた訳を「梶川氏筆記」として書き置いておこうと、書役に織田刈右衛門という浪人を雇います。
 刈右衛門は有能な書記でしたが、訝った与惣兵衛が刈衛門の居室を探ると元赤穂藩士・岡田利右衛門が自分を討ちにきたのではないかとの疑いが出てきます。 オダカリエモン、オカ ダリエモン。。。
 さて、利右衛門が与惣兵衛を討つ方法とは。

大阪留 守居役・岡本次郎左衛門
 ◇語り手:旗本江戸船手頭・向井将監
 ◇聞き手:岡本次郎左衛門
 ◇場所:向井将監の屋敷
 向井は次郎左衛門が元赤穂の浪人だということを知りながら用人として雇います。働きも良く何れは要職に就けようと思っていた矢先に、次郎左衛門が夜な夜 な出 歩き野良犬を殺していることが分かります。当時は生類憐れみの令が出ていて、犬を殺すなど一族遠島の重罪です。

 身体の不自由な次郎左衛門は、夜な夜な出歩き、街角に火を付けて騒動を起こし、仲間が吉良邸の図面を書くための手引きをしていたのでした。

江戸家 老・安井彦右衛門
 ◇語り手:安井家用人・高梨武太夫
      :津和野亀井家筆頭家老・多古外記
      :日庸取頭・前川忠太夫の手下
 ◇聞き手:多古外記と高梨武太夫
 ◇場所:津和野亀井家江戸上屋敷
 江戸家老安井彦右衛門は、今度の勅旨接待役が浅野内匠頭に決まりそうだという話を得て、吉良上野介と内匠頭の性格からして一波乱あることを案じます。老 獪な彦右衛門 は、苦労の末に他家に肩代わりを依頼したのですが、内匠頭の知るところとなり逆上した内匠頭は脇息を彦右衛門に投げつけ「大役を務めた後は、汝の首をはね て やる」とわめきます。
 このとき、彦右衛門は浅野家を去る決意をしていました。浅野のお殿様はかなり短気だったそうです。

江戸賄 方・酒寄作右衛門
 ◇語り手:白金の蕎麦屋「白金そば茶屋」の亭主(実は。。。)
      :堀部安兵衛の妻女・妙海尼(実は。。。)
 ◇聞き手:妙海尼と蕎麦屋の亭主
 ◇場所:清浄庵
 妙海尼は泉岳寺の側の清浄庵に住み、毎日泉岳寺に参って亡夫や義士の供養をしています。墓前で参拝客を相手に、亡き人々の生前の思い出話をしています。 最近は、討ち入りに参加しなかった元赤穂の浪人の何人かの名前も挙げて、実は義士以上の手柄を立てていると話しています。

 この浪人らが営む商売は、一時は不忠義者と非難され商売どころではなかったのが、妙海尼の講釈以来繁盛しつつあります。
 さて、蕎麦屋の亭主は?妙海尼は?

馬廻・ 橋本平左衛門
 ◇語り手:戯作者・近松門左衛門
      :蜆川の女郎屋・天満屋惣兵衛(元赤穂藩足軽頭・佐々小左衛門)
 ◇聞き手:近松門左衛門と天満屋惣兵衛
 ◇場所:天満屋店先
 惚れた遊女・お初の身請けのために刀を売りに出し、仲間から「武士の命を売るとは」「討ち入りに参加する気がない」となじられ「死地に向かおうとしてい る 時に、一人ぐらい幸せにしてやっても良いのではないか。自分の身の証は3日以内に見せてやる」と言い、3日目の朝、お初を殺し自分も死んでしまいます。

 この二人の無理心中は「蜆川心中」といわれていたようです。蜆川は現在の大阪・北新地の新地本通りと上通りの間に堂島川の支流として流れていたそうで す。
 その後、天満屋の遊女お初と醤油問屋天野屋の徳兵衛の「曽根崎心中」がおきています。

江戸給 人百石・小山田庄左衛門
 ◇語り手:肥後細川家・家士堀内伝右衛門
      :小山田庄左衛門の父・小山田一閑
      :元浅野家家老・大石内蔵助
 ◇聞き手:堀内伝右衛門、小山田一閑、大石内蔵助
 ◇場所:肥後細川家江戸屋敷・役者の間
 浅野家断絶により、浪々の身となった一閑は娘の嫁ぎ先に居候していますが、娘婿から辛い仕打ちを受けています。
 今生の別れにきた庄左衛門は、父が辛い毎日を送っていることを 目の当たりにして、大石から内匠頭の後室・瑶泉院へ渡すように預かった25両を「大石様からのいただき物だ」と置いていきます。

 討ち入りの浪士の中に息子・庄左衛門がいなかったことを知った一閑は、真意を確かめたいと、大石内蔵助が預けられている細川家を訪ねます。

◆江戸歩行小姓頭・中沢弥市兵衛
 ◇語り手:八丁堀定廻同心手下
      :麻布今井町・豆腐屋「白壁屋」亭主・勘八
      :勘八の女房・お米
      :元浅野家奥様衆・落合与左衛門
 ◇聞き手:定廻り同心、その手下、勘八、お米
 ◇場所:白壁屋の店先
 豆腐屋「白壁屋」の働き者の職人・市兵衛が仕事場で死体となって発見されます。
 まじめに働く市兵衛を恨みをもって殺すのは誰かと詮議は始まります。
 市兵衛の荷物の中から「赤穂浅野家分限帳」が出てきて、市兵衛は中沢弥市兵衛であることが分かりました。

 分限帳に挟まれた細引紙に「寿昌院様より中沢弥市兵衛に賜りし御言葉・・・」と朱書されていた。
 刃傷事件の後、内匠頭の後室・瑶泉院が浅野家上屋敷から今井町の里に帰る折に、付き添った弥市兵衛に「お身大切にな」と声をかけられたことから、瑶泉 院に懸想し、その死に殉じて自害したのでした。
 ※内匠頭の後室(未亡人)・阿久里は内匠頭の切腹の翌日に出家し寿昌院を名乗るが後に瑶泉院と改める。

江戸大 納戸役・毛利小平太
 ◇語り手:元浅野家絵図奉行・木村岡右衛門
 ◇聞き手:松平家家臣・波賀清太夫
 ◇場所:松平家江戸屋敷弐番棟
 討ち入りの後、預けられた伊予松山松平家江戸屋敷で最期の食事を取りながら、岡右衛門が松平家家臣・波賀清太夫に語る討ち入りに加われなかった毛利小平 太 の話。

 茶器屋に住み込んで吉良邸の陣容を探るうちに、相手方にスパイであることを見破られてしまいますが、そのまま知らぬ振りをして相手方に偽 の情報を流して欺くことにします。
 決行前夜、連絡役の岡右衛門は吉良側の盗み聞きを知った上で悟られぬように、偽の情報を伝え「明日はゆっくりするように」と言いながら、地面に「明夜、 討 ち入り決行」と書きます。

 小平太は「そんなばかな。なぜ、この小平太だけが・・・」と捨て駒にならざるを得ないことを悟り悲しそうな目で岡右衛門を見返しますが、最期まで敵を欺 き通します。

 この章では、岡右衛門に出される最期の晩餐の料理が美味しそうに書かれています。「裂き海老の酒漬」「魚肉団子の摘入汁」など。藤 沢周平作品に出てくる庄内(海坂藩)の郷土料理を思い出しました。

小姓・ 鈴木田重八
 ◇語り手:上野国伊勢崎酒井家目付役・村尾勘兵衛
      :上野国伊勢崎酒井家旗組小頭・小関文之進
 ◇聞き手:村尾勘兵衛、小関文之進
 ◇場所:伊勢崎村尾勘兵衛屋敷
 文之進と姉勝間田登貴は、登貴の夫と娘の仇敵・玉野平八を討つために旅に出ます。
 江戸に玉野平八と思わしき人物に遭遇し密かに探りを入れてみると間違いなさそう。「わが夫、わが娘の仇、、」と名乗りを上げて討とうとするが逃げられて しまいま す。

 玉野平八は逃亡の途中、水難事故に遭い大怪我をします。兄弟に追いつめられた平八は「自分は赤穂浪人・鈴木田重八である。本物の玉野平八は5年前に 死んでいる」ことを告白します。
 仇と間違って追いかけられて、挙句に大怪我をした重八は討ち入りに参加できませんでした。

 この章では、赤穂浪人の変名について書かれていて興味深いです。
 例えば、大石内蔵助は垣見(かけひ)五郎兵衛と称していたそうです。大石家本国は近江国神崎郡垣見郷から垣見、母方の従弟の池田七郎兵衛をもじって五郎 兵衛としたとのこと。

 この続きは、次回か次々回に。
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