Google
WWW を検索 残日録内 を検索
←Back  Haiku  Home Mail Archives Twitter  Next→

05/05/13 映画「蝉しぐれ」序章

 黒土三男監督の映画「蝉しぐれ」 が10月に公開されます。
 黒土監督が、NHK教育テレビの番組(知るをしる「私のこだわり人物伝」)で原作者藤沢周平さんを語っておられます。
 今回は、NHKのテキスト?「私のこだわり人物伝」5月号を購入して読んでみましたので、黒土監督が語る藤沢周平、蝉しぐれを紹介しま す。

 藤沢周平さんの作品は、江戸下町に暮らす人々を描いた市井物と、東北の小藩・海坂(うなさか)藩を舞台にした海坂物とに分類されると言われています。

 「蝉しぐれ」は典型的な海坂物です。
 主人公の文四郎は、文武両道に長けた海坂藩の下級武士の子です。父・助左衛門は、藩の派閥抗争に巻き込まれて切腹を命じられます。
 役宅の隣家の少女・ふくとの恋、武に長け文には弱い逸平、文には長けているが武には弱い与之助の二人との友情、、、、

 「蝉しぐれ」は、藤沢さんの作品の中では一番の青春小説だと思っております。一昨年、NHKの金曜時代劇でドラマ化され放映さ れたとき、昨年末の再放送と2度も見る機会を得ました。
 NHKドラマの脚本を書かれたのが、今回の映画「蝉しぐれ」の黒土監督です。

 「蝉しぐれ」を読まれた黒土さんは、出版社を通して藤沢周平さんに映画化の許可を求められたそうですが、周平さんは「作家は映像化するために書いている のではない。できればそっとして置いて欲しい」とお断りになられたとのことでした。
 黒土さんは、東北地方にロケハンをしシナリオを書き上げてから、改めて映画化を依頼されました。
 そんな努力をされて、映画化の許可を得られたとのことです。
 後日談で、周平さんは映画化の依頼が大手映画会社ではなく黒土さん個人だったために、映画化に失敗して大きな負債を抱えることなどを心配されて当初断ら れたとのことです。

 黒土さんは、山形県庄内地方の風土を紹介し、この風土が藤沢周平さんを生んだと語られています。少し長いですが引用します。


 村の正 面には田圃(たんぼ)や遠い村村をへだてて月山がそびえ、北の空には鳥海山が見えた。村のそばを川が流れ、川音は時には寝ている夜の枕(まくら)もとまで ひびいて来た。蛍(ほたる)がとび、蛙(かえる)が鳴き、小流れにはどじょうや鮒(ふな)がいた。草むらには蛇(へび)や蜥蜴(とかげ)も棲んでいた。
(「乳 のごとき故郷」『ふるさとへ廻る六部は』)
 このような環境が、自然についての感覚 と眼を培い、自然描写の名手、藤沢周平を生んだことはまちがいないが、しかし藤沢さんはいかにも彼らしく、次の ように付け加えること忘れてはいない。

 私はそ のような村の風景の中で、世界と物のうつくしさと醜さを判別する力を養われ、また遊びを通して生きるために必要な勇気や用心深さを身につけることが出来 た。私はそういう場所から人間として歩みはじめたことを、いまも喜ばずにいられない。
(同 前)

  風土の一つでしょうか郷土料理もたくさん紹介されています。

 孟宗汁:何年か前に周平さんゆかりの宿でいただいた孟宗汁が忘れられません。湯田川温泉の土産物屋の店先で大きな鍋で作っていました。
 ダダチャ豆:大阪の居酒屋のメニューにダダチャ豆とありましたので注文しましたら、ダダチャ豆はありませんが、ダダクロ豆はありますとのこと。ダダチャ とは庄内弁で親父さんのことで、親父の好きな豆という意味ですとよと教えておきました。
 他にも、民田(みんでん)なす、クチボソ(マガレイ)、赤カブの漬物、醤油の実(醤油の絞りかすに塩と麹を入れて発酵させたものだそうです)等々。海坂 物には良く出てくる食べ物です。

 助左衛門の切腹の前日、許されて文四郎は父に会いに行きます。
 助左衛門は、
 「しかし、わしは恥ずべきことをしたわけではない。私の欲ではなく、義のためにやったことだ。おそらくあとには反逆の汚名が残り、そなたたちが苦労する ことは目に見えているが、文四郎はわしを恥じてはならん。そのことは胸にしまっておけ」
 と、文四郎に語ります。
 助左衛門の言葉に「おやじを尊敬していると言えばよかったんだ」と文四郎は泣きます。

 藤沢周平研究家の松田静子さんがコラムで、庄内の風景、食べ物、気質について書いておられます。興味深い文章です。

 この本には、井上ひさしさんが書かれた蝉しぐれの舞台である海坂藩城下の地図が掲載されています。映画を観られる前に一見される価値ありと思います。

 また、この本は、藤沢周平さんと併せて池波正太郎さんを山本一力さんが紹介されています。その中に藤沢周平さんの「池波さんの新しさ」と言う文章が掲載 されています。

◆NHK教育テレビ「藤沢周平〜 日本人が美しかった頃〜」の今後の放送予 定
 第1回(再々放送):6月1日午前2:25〜
 第2回(再放送):5月17日午前5:05〜
     (再々放送):6月8日午前2:25〜
 第3回:5月17日午後5月17日午後10:25〜
     (再放送):5月24日午前5:05〜
     (再々放送):6月15日
 第4回:5月24日午後10:25〜
     (再放送):5月31日午前5:05〜
     (再々放送):6月22日午前2:25〜

◆映画のパンフレット
 知り合いから、映画館においてあった「蝉しぐれ」のパンフレットに、私の名前が掲載されていてびっくりとのメールを貰いました。
 映画「蝉しぐれ」の公式Webサイトの 掲示板に「公開が楽しみです」と書いたのが、パンフレットに転載されていたそうです。私は未だ観ておりませんが。

◆JR西日本の事故にかかわるマスコミの対応について
 「残日録」(050506)に書きましたよ うに、今回の事故はJR西日本という会社(組織)の犯罪だということはもちろんですが、それを寄ってたかって袋叩きにするようなマスコミの姿勢にも胡散臭 いものがあります。

 そんなマスコミの取材のあり方の一つに、横着な記者の発言や態度がありましたが、今日(13日)読売新聞の大阪本社社会部長が「脱線事故会見をめぐる不適切発言でお詫び」を出しています。

 記者会見場でJR西日本の幹部社員に「あんたら、もうええわ、社長を呼んで」などと声を荒らげたり、感情的な発言をしたりしたいたそうです。「不適切発 言」とは”暴言”の言いかえのようです。
 ・使命感や熱心さのあまり・・・
 ・冷静さを欠いた
 ・日ごろの指導が生かされなかった
 と、紋切り型の「お詫び」です。
 その記者会見のシーンを私は見ていませんが、この暴言シーンがテレビなどで報道され、苦情などの反響が大きくなってからのお詫びのようです。

 他人には厳しく、自らには優しいマスコミの姿の一部を見たような記事でした。
inserted by FC2 system