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05/09/30 河井 寛次郎「火の誓い」

 先日、京都市内をポタリングしていて河井 寛次郎記念館に立ち寄りました。「サイクリング日記」 (05/09/24)
 記念館の2階の書斎に掛かってあった額「仕事が仕事をしています」を見て、帰宅後部屋を探しますとやはり「火 の誓い」に載っ ていました。

 今回は河井寛次郎さんの「火の誓い」を紹介します。

 河井寛次郎さんは1890(明治23)年島根県安来のご出身の陶芸家です。陶芸だけでなく書、木彫などにも秀でた才能を発揮されています。
 柳宗悦、濱田庄司、バーナード・リーチ等とともに民藝運動の旗手でもあられました。

 この本は「火の誓い」「いのちの窓」など私家本から、1948(昭和23)年朝日新聞社から出版されたものを底本として発行されています。

 私の気に入った部分を中心に紹介します。

◆部落の総体
 京都府南部の山田川村、川西村(今の精華町界隈)を歩いていて、集落内の家々の配置などに「美」を見出されたそうです。
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 家と家とは − 甲は甲某として乙は乙某とは、どうしてこんな美しい間隔と均衡を保って隣合わされたのか。相隔てたる甲と丁とはどうしてこんな美しく隔 離されたのか。瓦と草屋根を誰がこうもたくみに配分したのか。甲乙丙丁、それぞれの家の持つ力を、時には複雑極まるでこぼこの丘地や山の傾斜面に、誰が一 体こんなに見事に配置し組み合わせたのか。自分はいつもこの偉大なる設計者の前
に立って驚かない訳にはゆかない。
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 現在の地図と航空写真を見てください。



精華町吐師・はぜ付近(MapFanから)

精華町吐師・はぜ付近(航空写真)

 都市計画があった訳でもないのに、調和の取れた集落が作られたのですね。
 近いうちに、この辺りを散策してみたいと思います。

◆藁細工・孫さん
 寛次郎さんが、京都北山の農家で朝鮮人の孫さんが作った藁畚(わらふご)を見かけ、その細工に惚れて河井家で働いてもらうことになりました。
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 こういう人達はかつて歴史上表彰された事がない。しかし表彰されなかったことが一番大きく表彰されている事でもある。
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 寛次郎さんのご長女美那子さんが本書のあとがき(人と作品)で孫さんの思い出を下記のように書かれています。
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 (修学旅行の朝)
 何処からともなく孫さんが現れて、「ジョーちゃんシェンペチュ」と五十銭銀貨を持たせてくださった。私は孫さんが子供の私の為に、こんな細やかな心遣い をされるとは思いもしなかったので吃驚したが、とても嬉しい気持ちで、(後略)

 あれから長い歳月が流れた。昭和四十八年(1973)、我が家が河井寛次郎記念館として公開されることとなって、また久しい。受付付近の板の間に、当時 のまま、孫さん作の縦1メートル横1.5メートルの藁で編まれた敷物がどんと敷かれ、六十年経った今も健在である。人々の出入りの都度足下に踏まれ、これ に気付く人は殆ど稀であるが、傷みもなく敷板を保護していてくれる。
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 記念館には何度もいっているのに、孫さん作の敷物には気が付きませんでした。今度はしっかりと見てみましょう。

◆遺憾なことに
 寛次郎さんが板画家の棟方志功さんのことについて書かれた文章です。
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 遺憾なことに真当のものは大抵は痛ましい中から生まれるものだ。君もそういう籤(くじ)をひいた一人なのだ。君は大抵の人のへこたれる処をいつも立ち上 がってしまう。それでいて君はやさしい清い人だ。そういう君を思うと身体中があつくなって来る。
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◆寛次郎さんの言葉

 何もない 見ればある

 この世は自分をさがしに来たところ
 この世は自分を見に来たところ
 どんな自分が見付かるか自分

 美しいものしかない
 みにくいものはまよい

 暮しが仕事 仕事が暮し

 道を歩かない人
 歩いた後が道になる人

 大根大地へ はだかを打ち込む

 二つならべて 足のうらのも
 月を見させる

 後半のいくつかは、山頭火の句のような言葉です。
 土、木、金属、そして文字も思いとおりに扱われています。

◆七藝
 十三の第七藝術劇場が休館となりまし た。
 経営不振のようです。再開の見通しなどは不明です。
 小さかったですが、大阪の文化の灯火が一つ消えそうです。
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