05/10/22 葉山
嘉樹「セメント樽の中の手紙」
「プロレタリア作家、葉山嘉樹の作品見つかる 中国で」(朝日新聞
2005年10月19日)という報道がありました。
中国遼寧省の図書館で葉山嘉樹の全集にも収録されていなかったエッセーが見つかったそうです。
このエッセーは1943(昭和18)年に「満州新聞」に連載されたいたエッセー「竿頭進一歩(かんとうしんいっぽ)」です。※「竿頭進一歩」は、工夫を
尽くした上にさらに向上の工夫を加えるという意味だそうです。
今回見つかった作品は筑摩書房発行の「ちくま」11月号に全文掲載されるとのことです。
葉山嘉樹:プロレタリア作家。1894(明治27)年福岡県京都郡豊津村の小笠原藩士族の生まれ。早稲田大学予科中退後、水夫、学校の庶務課、セメント
会社、新聞社、ダム工事など職を転々とする。代表作作品には「淫売婦」、「セメント樽の中の手紙」、「海に生くる人々」など。
1945(昭和20)年10月18日、中国からの帰国途中に死去。
「セメント樽の中の手紙」を読んだ時に、なんともいえぬショッキングな小説であったことを憶えています。
松戸与三は6人の子供と身重の妻を持ち、ダム工事の建設現場でセメント樽からセメントを計りだす日給1円90銭の労働者です。与三がセメント樽開けいる
と樽の底から木箱が出てきました。木箱を踏み潰すように開けてみると襤褸に包んだ紙切れが出てきた。
その紙切れには「私はセメント工場でセメント袋を縫う女工です。私の恋人は誤って破砕機(クラッシャー)に落ちて骨も、肉も、魂も粉々になりました」
「あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相だと思って、お返事ください」と書かれています。
「お願いですからね。此セメントを使った月日と、それから委(くわ)しい所書と、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、御迷惑でなかった
ら、是非々々お知らせ下さいね。あなたも御用心なさいませ。さようなら。」
与三は身の廻りに子供たちの湧きかえるような騒ぎを覚えて、茶碗酒をグィッとあおりながら、
「へべれけに酔っ払いてえなあ。そうして何もかも打(ぶ)ち壊して見てえなあ」とつぶやくのでした。
「セメント樽の中の手紙」は、「青空文庫」
で読むことができます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000031/card228.html
代表作の「淫売婦」「海に生くる人々」も青空文庫で読むことができます。
作品の舞台は岐阜県中津川市の落合ダムだそうで、近くには文学碑があるそうです。
碑にはこのように書かれているそうです。
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馬鹿にはされるが
真実を語るもの
がもっと多くなるといい
葉山嘉樹
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