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05/11/05 読売 新聞大阪社会部「警 察官ネコババ事件〜おなかの赤ちゃんが助けてくれた〜

 佐野洋さんの「『小の虫』の怒り」で一部紹介(「残 日録」05/10/04)しました1988(昭和 63)年に大阪府堺市で発生した通称「警察官ネコババ事件」を調査報道した読売新聞社会部「警 察官ネコババ事件〜おなかの赤ちゃんが助けてくれた〜」を紹介 し ます。

 大阪府堺市内の団地で食品店Kを経営する夫婦(夫Kさん、妻Mさん)の身にヌーッと延びてきた手によって横領事件の犯人に仕立てられていく様子が克明に 綴 られています。

 1988(昭和63)年2月6日11時過ぎ、食品店Kで銀行の封筒に入った15万円が見つかった。経営者の妻Mさんが、 近所の交 番(堺南署槙塚台派出所)に拾得物として届けた。(11時40分頃)

 交番の巡査は「それやったら、届が出ているわ。大和銀行の袋やね」と、Mさんの名前と年齢、連絡先の電話番号を走り書きしただけで、正式な拾得物受理の 書類 を作らなかった。

 2月9日11時過ぎ、食品店でお金を拾って店員に届けた客が「あのお金どうなりましたか」と聞いてきた。
 昼食時にそのことを知ったMさんは13時過ぎに堺南署に電話で確認した。対応した堺南署の会計課員は「拾得物の届が出ていない」と言う。

 堺南署は6日の出勤者を交番に行かせるから首実検をしてくれという。
 交番には二人の警察官がいたが、Mさんはヘルメットを脱がずにいる巡査がそうかもしれないと思いながらも断定をしなかった。

 Mさんが拾得物を届け出た善意の市民であったのはここまでです。
 大阪府警堺南署は、Mさんを犯人と決め付けて「捜査」を続けます。

 この事件の経緯を本の中の記述を拾いながら下記のようにまとめてみました。


2 月6日 10時 49分
落と し主のHさん、大和銀行泉北支店で現金引き出し


11 時 4分
H さ ん、食品店Kで買い物




食品 店Kで客のおばあさんが銀行の封筒に入った15万円を拾得


11 時 40分
M さ ん槙塚台派出所に届ける


17時 頃
落と し主のHさん、槙塚台派出所に紛失を口頭で届出

2 月9日 11 時 過ぎ
拾 い 主のおばあさんが「あのお金どうなっているの?」と食品店Kに問い合わせ


12時 過ぎ
Hさ んも食品店Kに問い合わせに来る


13 時 過ぎ
M さ ん「堺南署にどうなっているのか」と電話で問い合わせする。「調べて架けなおす」と担当者


14時 過ぎ
堺南 署から電話あり「ほんまに警察官やったん?」「交番に顔を見に行ってください」と


14 時 過ぎ
M さ んと夫のKさんが槙塚台派出所で巡査の面通しをするが「確定はできない」と
西村巡査はヘルメットを脱がずにいた


夕方
専従 班組織、捜査1係:3名、捜査2係:1名、捜査3係:1名、警ら課:3名で専従班組織、刑事課長を外し捜査1係の岡田部長刑事が指揮を取る(当初は4名で 後に増員)


18 時 頃
堺 南 暑からMさんに呼び出し、泉ヶ丘派出所で「取り調べ」



Mさ んを「取り調べ」た刑事が「シロとピンと来た」と馬場警ら課長に報告するも「それじゃ犯人は警察官になる」と無視




谷 口 副署長、岡田部長刑事に「Mさん、クロは決定的」と発言

2 月10日
堺南 署の井上署長、馬場警ら課長が大阪府警第5方面監察官を訪ね「Mさんクロ、西村巡査シロ」を進言「一般事件として捜査する」


14 時 過ぎ
岡 田 部長刑事ら銀行の封筒の切れ端を発見

2 月12日
昼 過ぎ

H さんを岡田刑事が訪ねて「大和銀行の封筒」を見せる
「西村巡査は嫁も子供もおるからそんなことせん」と


13 時 過ぎ
「解 決したので交番所まで来てもらえませんか」と連絡があり、Mさん不在のためKさんが槇塚台派出所に行く
岡田部長刑事が「大和銀行の封筒」を見せ
「封筒は店の敷地から出てきた」
「破って金とっているとこ見た人もおる」
「カギを拾った人が交番に届に行ったが交番は留守やったから、裏の郵便局に預けた」
「奥さんが届けたという時間帯に、交番には警察官はいなかった」
「巡査はうそ発見器に掛けたがシロ」等と発言


17時 過ぎ
Mさ んへ出頭を求めに岡田部長刑事らが来て、Mさん夫婦や親戚の前で、
「Mさんの交番への行き帰りを郵便局から見ている人がいる」
「Mさんが封筒破ってるの見た人もおる」と脅す
Mさんの親戚の人にガードされ、「今度は逮捕状を持ってくる」と帰る


夜 〜翌 朝
刑 事 の帰った後、Mさんレポート17枚を書く

2 月17日

泉北 槙塚台郵便局に堺南署の刑事が訪ねる
「2月6日の11時30分頃拾った鍵を届けに来た人はいないか?」と問われ、局長は「郵便局で落し物を預かることはない」と答える

2 月18日
井 上 署長と谷口副署長は、とMさんの知人に「逮捕状とっている」と発言

2 月20日 昼ごろ
弁護 士とMさんが大阪府警第5方面観察室に出向く
「堺南署で調べたが警察官が犯人でない」
「堺南署の署長のほうが階級が上なので署長が調べるなと言ったら調べられない」と追い返される

2 月22日

K さ ん、Mさん夫婦の結婚記念

2 月24日

Mさ ん、産婦人科診察

2 月25日

読 売 新聞の記者、Mさんの実家を訪問

2 月27日

堺南 署が「捜査関係事項照会」を市内の産婦人科医に郵送

3 月1日

岡 村 産婦人科医院に堺南署からの照会状届く、院長堺南署に電話

3 月2日

捜査 員が岡村産婦人科医院を訪ね
「留置できるか診断書を書いて欲しい」
院長は「切迫流産の可能性あり」と記入する
捜査員が「『切迫流産』を消して欲しい」と言うので、院長は「切迫流産」の上に線を二本引き抹消した

3 月6日

読 売 新聞「拾った15万円蒸発」と事件を報道


7時頃
大阪 府警捜査2課が事件を担当することになる

3 月10日 昼 過ぎ
大 阪 府警捜査2課の刑事がMさん宅を訪問




谷口 副署長、大阪地検堺支部に逮捕状を取り身柄を拘束したいと申し入れるが、西村巡査の行動をもう少し洗うようにと

3 月11日

大 阪 府警は、大阪府議会への答弁書「ネコババしたのは主婦」を用意

3 月18日

Mさ ん、堺南署で2回目の供述調書を取られる

3 月25日

上 海 列車事故発生



堺南 署からMさん宅に電話あり「警察官が自供した」と


23 時 20分
大 阪 府警記者会見、「西村巡査が横領」を認める

3 月26日

井上 署長、Mさん宅を訪ね謝罪

5 月17日

井 上 署長減給1/1001ヶ月、谷口副署長と馬場警ら課長戒告、古賀刑事係長厳重注意処分
5月25日に公表

5 月25日

Mさ ん、損害賠償請求民事訴訟を提訴

6 月13日

読 売 新聞夕刊に「おなかの赤ちゃんが助けてくれた」連載始まる

6 月23日

井上 署長引責辞職、刑事課部長刑事他暑へ配置替え、新田府警本部長10/100一ヶ月減給、長尾刑務部長2/100一ヶ月減給

7 月10日

田 辺 聖子さん中央公論誌に「封筒の切れ端」という警察批判の文章を発表

7 月15日 午後
谷口 副署長、馬場警ら課長異動




第 一 回口頭弁論、即認諾

8月2日


岡田部長刑事依願退職

8月3日

大 阪府警、調査結果発表

◆Mさんレポート
 警察に出頭を求められ、犯人に仕立て上げられようとしている夜(2月12日)に書かれた文章は、事件に関する部分が具体的で曖昧なところがありません。 また夫Kさんや家族への思いもかかれており心をうちました。

 この文章は後に人を介して井上副署長のもとに「真実を語る書面」として届けられていたそうです。この文章を読めばMさんが犯人でないことは一目のはずな のに。

◇具体的な記述
 Mさんのレポートは細かなところまで、覚えているところは実に具体的に書かれています。
 ▽警察官しかあけることのできないドアが開いていた。
  そのドアのことは、実家に警察官がよくきていて話していたので知っていた。
 ▽机の上右側に制帽がおいてあった
 ▽「ああ、これはもう届がでている」と小さいボソボソとした声で言った。
 ▽「大和銀行の袋ですね」
 ▽年齢を1歳間違えて言った。
 ▽警察官はうす茶色のメモ用紙に「○○子」と書かずに「○○こ」と書いた。

◇人権
 岡田部長刑事は「Mさんが封筒を破っているところを見た人がいる」と言うので「それはだれや」と聞くと「その人の人権があるからいえない」と言ったそう です。
 Mさんの人権はどうなるのでしょうか?
 岡田部長刑事は最後まで、この目撃証人の身元を明かさなかったそうです。

 派出所での面通しで西村巡査を「この人」と言えなかったのは、前途ある若者に間違いがあってはかわいそうだとの想いだったからだったそうです。
 人の人権を思いやられるような人が、人権を侵害されたのです。

◇反証
 Mさんは岡田部長刑事らがMさん犯人の証拠としている事柄に反証しています。
 ▽派出所に警官はいなかった
  これは前述のとおり具体的な記述があります。
 ▽封筒を持って帰るのを見た人がいる
  ポケットのついていない服を着ていたので、封筒をどう持っていたか言って欲しい。
 ▽封筒を破るのを見た人がいる
  店の表や中ではしない、裏でするとしたらトラックがあり通りがかりでは見えないはず。
 ▽落とし主の指紋がついたといわれる封筒
  店の定休日に店内で落ちていたというが、定休日には店内に入れない。
 ▽届け出
  落とした人の届け出があると派出所の巡査は言ったのに後では「それらしき届」はあると刑事がいっている。

◆作られた証拠/証人
◇銀行の封筒
 岡田部長刑事らが、食品店Kの敷地内(近くの側溝内と言い換えています)で発見したという「大和銀行の封筒」は、Mさんの指紋検出などの鑑識の手続きが とられていない。
 本当に落ちていたものかどうかも怪しい証拠品です。

◇封筒(紙)を破っている女性を見たとの目撃証言
 岡田部長刑事は、その証人について本人の希望だといって、その住所、氏名などを警察内でも明らかにしていない。
 捏造と思われてもしようがない。

◇Mさんが届に行った時間帯に派出所に警察官がいなかったという証言
 Mさんが派出所に到着する10分以上前だったことが後に判明する。

◆陥れるための工作
 捏造された証拠、証人以外に堺南署はMさんを犯人に仕立て上げるために色々の工作をしております。
◇「大和銀行の封筒」にMさんの指紋がついているという嘘
◇西村巡査をうそ発見器に掛けたという嘘
◇横領事件は一般的には捜査二課(係)が扱う事件なのに、捜査一係(岡田部長刑事等)が主担当となっている。
◇捜査班から刑事課長を外している。
◇岡田部長刑事を始めとする堺南署のMさん夫婦への脅しに近い、発言の数々。

◆姑息な警察
◇横領事件発表のタイミング
 上海での列車事故の直後を狙った発表。

◇軽い処分
 この事件で懲戒処分を受けたのは横領犯の西村巡査だけです。
 その他の関係者は最高でも減給20/100一ヶ月(府警本部長)の処分であり、井上堺南署長や谷口副署長、岡田部長刑事は異動で済ませています。
 彼らのやったことは犯罪です。それも権力を使った組織的な犯罪です。何故、刑事告発しないのでしょうか?

◇処分のやり直し
 一回目の処分は5月17日にされていますが、発表されたのは一週間後の25日です。
 ▽井上署長減給1/1001ヶ月
 ▽谷口副署長と馬場警ら課長戒告
 ▽古賀刑事係長厳重注意処分

 こんな軽い処分でお茶を濁すつもりだったのでしょうが、Mさんの損害賠償請求民事訴訟の提訴、新聞での追及などがあり6月23日再度の処分をしていま す。
 ▽井上署長引責辞職
 ▽刑事課岡田部長刑事他暑へ配置替え
 ▽新田府警本部長10/100一ヶ月減給
 ▽長尾刑務部長2/100一ヶ月減給

 引責辞職した井上署長、その後依願退職した岡田部長刑事にも退職金は満額出ていることでしょう。

◇即認諾
 Mさんが起こした損害賠償請求民事訴訟に対して、事件の真相を明らかにせず「即認諾」として事実関係を争わないこととした。
 にもかかわらず、原告の主張とは違う部分もあると記者会見で発言するなど女々しいことです。

◆おなかの赤ちゃんが助けてくれた
 本書のサブタイトル「おなかの赤ちゃんが助けてくれた」は、読売新聞が連載を始める時にMさんが「本当におなかの赤ちゃんが助けてくれたよね」と述懐さ れた言葉から取られたそうです。

 堺南署からの照会に「拘留に耐えうる」と書かれれば、Mさんは逮捕・拘留されてしまい、これ以上に恐ろしい結果になっていたかもしれません。
 医師の良心に従って「切迫流産」と書き、「消してくれ」と言われて二本線で消したお医者さんは立派でした。

◆実名・匿名
 この本では、警察関係者は匿名であったり実名であったりしていますし、被害者夫婦は実名での記述でした。
 この事件は公務員の職権を利用した犯罪だと思っておりますので警察関係者は分かる範囲で実名で記述しました。その他の人は匿名で表記しております。

  ドキュメンタリー物ですから、紹介するのは部分であってもなるべく正確にと心がけたことと、脳の 老化でしょうか物事を論理的に整理する能力が極端に落ちていることが相まって何度も何度も読み返して3週間ほど掛かってしまいました。

 ご紹介するほどでもありませんが、事件の流れをこんな風に整理してみました。
◇道具:少し大きめの付箋紙(ポストイット)
◇読み進むごとに、事柄と発生日付とページ数をメモして貼り付けていきました。
◇本の厚みが1.5倍くらいになった時に、Excelに書き込んで日付順に並べ替えました。(日付、時刻、事柄、ページ)
◇一覧表をじっくり眺めて、前後に矛盾のあるところは、本に戻って確認しなおす。
 こんな風に、脳のメモリの壊れを補いながら書き進めました。
 
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