05/12/08
人間の命より大事なもの
前回の「残日録」(05/12/07)
で、死者まで出している松下電
器産業の自社製品の不具合への対応の悪さについて書きました。
最初の死亡事故から11ヶ月(リコールからは8ヶ月)も経過して、新たな死亡者が出たことを重く見た経済産業省は、11月29日に「消費生活用製品安全
法」に基づく「緊急命令」を発動しました。
その内容は以下の通りです。
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▽緊急命令の内容
@製品の回収又は点検及び改修
対象製品であって、本年4月以降所要の改修及び点検を行っていないものについて、速やかに回収又は一酸化炭素が室内に漏れないよう点検を行い必要な場合
は回収をおこなうこと。
A注意喚起
対象製品を使用する者に対する注意喚起を行うこと。
a.松下電器産業が採る措置の内容を示すと共に、エアホースの交換又は点検及び改修をしていない当該製品を使用することが危険である旨の告知を行うこ
と。
b.4月以降松下電器産業(株)が行った注意喚起にもかかわらず、十分な周知がなされていない状況にかんがみ、注意喚起の表現、頻度、媒体等を見直し、
より有効と考えられる方法により、これを行うこと。
B措置状況の報告
上記@Aに関して、実施状況及びその後の実施計画を12月6日までに報告すること。同計画の実施状況を今後1年間、毎月報告すること。
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経済産業省は「4月以降松下電器産業(株)が行った注意喚起に
もかかわらず、十分な周知がなされていない状況にかんがみ、注意喚起の表現、頻度、媒体等を見直し、
より有効と考えられる方法により、これを行うこと。」と、新聞での社告や、インターネットのホームページでの注意喚起では効果が出ていない
と指摘していたのです。
11月21日の被害者は現役の教員夫婦で、一般的には情報が得やすい環境におられたのではないかと推測します。
そのような人が被害を受けるということは、経済産業省の言うように「十分な周知がなされていな」かったのです。
テレビの画面に映る役員らの態度には、未だ未だ人の命より大切なものがあると謂わんばかりに見えてしまいました。
「振り返れば、遅きに失したと思う」と副社長が言っているそうです。
被害者の立場に立てば、こののんびりした発言を聞くと殴ってやりたくなりますね。
遅かったのですよ。
あなたたちが人の命より大事なものがあると思っていたために、新たに3人(一人は死亡)の人が犠牲になっておられます。
12月6日に松下電器産業が発表した「緊急対策」は、彼らが自発的に講じた対策ではありません。
11月29日の経済産業省の「緊急命令」を受けて報告期限の6日の夜になって発表したものです。お上の言うことだから仕方なく聞いているだけではないで
しょうか。
彼らの「緊急対策」は以下の通りです。
◇対象製品を5万円で引き取るか、修理をする。
◇修理済の顧客に電話にて注意を促す。
◇引き続き使用を希望する顧客には警報機を無償提供する。
◇新聞に告知をする。
62紙、全2段、計4回
62紙、全15段
◇10日間、全テレビCMを「お知らせとお願い」に差し替える。
◇寒冷地では追加スポットCMを流す。
◇ラジオ提供番組のCMを差し替える。
◇新聞折込チラシによる周知をする。
◇ガソリンスタンドや石油販売店へのローラー作戦の実施、、、
細々と書かれています。
「FF式石油温風機及び石油フラットラジアントヒーター 安全確保のための『緊急対策の実施』について」(
松下電器産業株式会社 2005年12月6日)
4月にリコール発表した時に、この半分のことでもできなかったのでしょうか?
◆人命軽視の会社
下記新聞の記事によると松下電器産業の副社長は「人命重視の会社になりきれていなかった」ことを自ら認めています。
「戸田副社長は苦渋の表情を浮かべた。『抜本的な対策を取れなかったのは、人命軽視ではないのか』との質問には、『人命軽視で仕事をやってきたことはな
いと思いながらも、指摘を肝に銘じて人命重視の会社になりきらないとだめだと思っている』と釈明した。」
「松下温風機事故、対策『遅きに失した』──副社長ら会見で謝罪」(日本経済新聞 05/12/07)
◆対策費用は200億円と少々同情的
松下電器産業の石油温風暖房機による一酸化炭素中毒への対策の費用が200億円かかると、さすがに日本「経済」新聞は同情的な記事となっています。
企業の存在が「人の命」より重いわけはありません。あってはなりません。
「松下、温風機事故対策に200億円・CM全面切り替え」(日本経済新聞 05/12/07)
◆山形の事故の危険性は分かっていた!
石油温風暖房機の不具合の修理を、ゴムホースを銅製のホースに替えるという松下側の修理方法では「ホースが抜ける危険がある」と言う意見を販売業者が松
下側に伝え
ていたそうです。
この販売業者は、4月の販売店会議でも関連会社に問題点を指摘していたと証言しているそうです。
松下電器産業は「取り付けのクリップも改良されており、しっかり締めれば、脱落の心配はなく、構造上の問題はない。修理現場から指摘があったことは把握
していない」と言っているそうです。
この会社の体質でしょうか?
証拠が出てきたら、役員が安い頭を下げるのでしょうか?
「リコール後の交換ホース『抜けやすい』 温風器中毒事故」(朝日新聞 2005年12月07日)
「松下製温風機、「銅製ホースは抜ける危険」業者が指摘」(読売新聞 2005年12月8日)
◆顧客名簿を処分していた!
「保有者特定につながる顧客名簿を処分するなど、個人情報保護の方策が裏目に出る誤算もあった」と書かれています。
この記事も変です。
管理ができないから捨ててしまうことを、個人情報保護の「方策」とは聞いて呆れます。この記事を書いた記者の常識も疑われます。
松下電器産業は立派な「松下電器個人情報保護方針」を掲げているにもかかわらず、個人情報がキチンと管理できない会社なのですね。
「個人情報保護法」は、大事な顧客リストを捨てろとは言っていません。
「個人情報」をキチンと管理しなさいと言っているのです。
管理できないから捨ててしまう等とは本末転倒以前の問題です。
新聞社は、何故、素人でも分かるこの会社の馬鹿さを指摘しないのでしょうか?
こんなことが松下電器産業とこの記事を掲載している新聞の「信用失墜」のように感じました。
記事の最後をこう結んでいます。
松下電器産業も、その社員も、新聞社も、記者も、揃いも揃って馬鹿だと言う見本のような記事です。(以下引用)
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「『顧客名簿が見つからない』――。石油温風機の事故を公表した今年4月、顧客の特定を始めた松下社員は頭を抱えた。
松下はこの1年、顧客名簿の処分を積極的に進めた。個人情報保護法施行やセキュリティー重視の風潮が高まる中、企業の顧客名簿の紛失や漏洩(ろうえい)
事件が相次ぎ、過去の顧客名簿の整理がリスク軽減につながると考えたからだ。」
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「松下の石油温風機、修理済み製品の事故で信用失墜」(日本経済新聞 05/12/08)
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