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06/01/25 松本清張「蒼い描点」

 一時はむさぶるように読んだ松本清張さんの作品も最近は殆ど読まなくな りました。
 大阪梅田の古書店・あじろ書林で「蒼い描点」を見つ け、久しぶりに清張作品を読みました。

 端的な印象は、今まで清張作品に持っていた印象とは少し違う感覚でした。

 雑誌の編集者・典子は、原稿督促のために女流作家が滞在する箱根の旅館を訪ねることとになります。
 典子は箱根で、顔見知りの情報屋の男と行きかい立ち話をします。その彼が翌朝墜死体となって発見されます。
 警察は自殺として捜査を打ち切るが、典子と同僚の崎野が素人探偵として事件を解き明かしていきます。

 横糸に、典子と崎野の恋愛感情を織り込んだ読み物としては面白いものでしたが、松本清張さんの推理小説と構えて読み始めた私には肩透かしでした。

 この作品は58(昭和33)年7月〜59(昭和34)年8月まで「週刊明星」に連載されたものです。
 初出が芸能週刊誌への連載という制約もあったのでしょうか、同じ時期に書かれている「点と線」や「黒い画集」のような社会性や、暗さはありませんでし た。

 現代の読者には謎の設定やその謎の解明方法が読めてしまうものがいくつかありました。
 女流作家の盗作は早い段階で読めてしまいました。

 また、読者の目をくらますための工作をした人物が、主要な登場人物の親戚の人で全くの善意の人だったなどというのは「それはずるい」と思ってしまいまし た。。

 読み手としての私がすれっからしになって来たのかもしれません。

 そして、主な登場人物に生活感が感じられませんでした。
 典子は20歳前半のようですが、思いついて仕事帰りに夜行で事件の調査に行ったり、旅先で急に泊まったりしています。
 クレジットカードも、銀行のATMも無い時代にどのようにして現金を用意していたのでしょうか?

 楽しい発見もありました。
 当時は、東京から姫路行きの夜行の普通列車があったようです。
 今は、深夜の大垣行きしかありませんが。

 典子たちの通信の手段も私には楽しい発見でした。
 箱根の旅館から東京へは市外通話を申し込んで暫く待たねばなりませんん。混んでいると数時間待つことも会ったようです。
 そのため「至急」などというサービスがあったのですね。

 崎野の住むアパートには居住者を呼び出すための電話があり、崎野は典子からの連絡を電話機の近くで待っています。

 移動も通信も、現代とは時間のサイクルが随分と違うようです。
 懐かしい風景でした。
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