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06/01/30 文藝 春秋「藤沢周平の世界」

 今回紹介するのは「藤沢周平の世界」です。 藤沢周平さんの作品(文庫本)への解説や、全集発刊時の月報に書かれた作品論や藤沢周平論が集められた藤沢周平Worldへの誘いの 書です。

 執筆は下記の各氏です。
 ▽向井敏▽駒田信二▽丸谷才一▽常盤新平▽丸元淑生▽藤田昌司▽有明夏夫▽井上ひさし▽清原康正▽尾崎秀樹▽関川夏央▽皆川博子▽桶谷秀昭▽清水房雄▽ 秋山駿▽中野孝次▽西義之▽城山三郎▽川本三郎▽杉本章子▽出久根達郎▽飯田経夫▽綱淵謙錠

 1部は、30編の作品論や周平論、2部は城山三郎さんとの対談、藤沢周平さんのインタビューと随筆から構成されています。

 その中から、西義之さんの「『三屋清左衛門』を読む」を紹介します。
 このサイト名を借用している「三屋清左衛門残日録」に登場する女性がテーマです。

 西さんは周平作品の史伝物(「一茶」「白き瓶」「市塵」など)は、苦手だそうです。
 私は歴史の史実がほとんど分からないので、西さん同様に楽しく読めるものエンターテイメント性の高い読み物が好きです。

 「蝉しぐれ」のおふく、「平四郎活人剣」の早苗、「海鳴り」のおこう、そして清左衛門を取り巻く女性は、主人公の男よりも立派だと書かれています。

 隠居した清左衛門の息子の嫁・里江と、行きつけの飲み屋の女将・みさが初読の時に印象に残った女性でした。
 小料理屋・涌井のわか女将・みさが魅力的に紹介されています。

 清左衛門とみさは、何か心通い合う仲です。
 急な雪で帰れなくなった清左衛門が涌井に泊まった夜、朦朧とする意識の中で寝床にみさがもぐりこんできたような感触を感じるのですが、清左衛門は口には 出 せずにおります。

 みさが国元に帰ることになる。
 ふたりの別離のシーンです。(台詞だけの抜書きです)

 「みなさんにお別れするのが辛くて。とてもよくしていただいて、楽しゅうございました」
 「なにも出来なかった」
 「いいえ」
 「こうか」
 「これで思い残すことはありません」

 蝉しぐれの文四郎とおふくの別れを思い起こさせます。
 再読したくなりました。


 この本の見開きには井上ひさしさんの手による「海坂藩」の絵図がついています。
 この絵地図を見ながら、「蝉しぐれ」を再読したいと言う衝動に駆られます。

 また、巻末には年譜もついています。
 藤沢周平さんファンには手頃な入門の書です。ご一読ください。
 
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