06/03/07 藤沢
周平「静かな木」
久し振りに藤沢作品を読みました。今回
は「静かな木」を紹介
します。
文庫本・解説の立川談四楼さんは「藤沢周平ファンの頭の中には、海坂藩の地図が明確にあるという」と書かれています。
私の頭は少し惚けていますので「明確」ではありませんが、五間川、矢場町、、といくらかはイメージできます。
可愛がっていた犬の死、妹の婚約者との絶交、、深刻になりそうな気配が一転ユーモラスな結末を迎える「岡安家の犬」、醜男で口下手おまけに小心者の武士
が
本藩との争いごとの交渉役に選ばれて・・「偉丈夫」と、そして「静かな木」の3つの短編が収録されいてます。
三作とも藤沢周平さん最晩年の海坂(うなさか)ものです。「偉丈夫」の舞台は海坂藩の支藩海上(うなかみ)藩です。
布施孫左衛門は家督を息子に譲って隠居生活を送っています。
少ない釣果の帰り道、森閑とした境内に静かに立つ欅の大木を見ながら「−−あのような最期(さいご)を迎えられればいい」と、妻に先立たれたわが身を欅
の老木に見て老年の死を感じるような日常です。
孫左衛門はまもなく還暦を迎える年頃、物理的な年齢は私と同じです。
孫左衛門の働きも凛々しく三屋清左衛門に引けを取るものではありません。隠居の力も捨てたものではありません。
養子に出した二男が中老の息子と果し合いをするという、勝っても負けても養子先を家名存続の危機に陥れることは間違いない。
中老・鳥飼郡兵衛は20年前、出入り業者から賄賂を取っていたことが明らかになり、孫左衛門たちが帳簿の付け間違いと通したことで罪を問
われずにすみました。郡兵衛は中老まで出世し、孫左衛門たちは禄高を減らされる処分を受けています。
孫左衛門は郡兵衛に息子の果し合いを止めさせるように直談判に出かけます。
クライマックスでは藤沢周平さん得意の立ち回りがあります。
一見、いや一読の価値有りです。
「果たして橋をわたって来る足音がした。孫左衛門は脇差(わきざし)の鯉口を(こいくち)を切った。わざと下駄の音をさせた。するとうしろから熱い風に
似たものが襲いかかってきた。闇(やみ)の中を滑って来た見事な疾走だった。孫左衛門は下駄を蹴(け)り捨てて片膝(かたひ
ざ)を地面に突くと、刀の鐺(こじり)を高く背後に突き出した。つぎの瞬間、身をひるがえして立つと足がとまった相手に一撃をくらわせた。」
孫左衛門は息子に二男の果し合いを収拾するために自分が動くことを告げ、20年前の郡兵衛の収賄事件の子細を話して聞かせます。
石高を減らされた馬鹿な父のことを疎んじてきたのであろうと思っていたが息子が父を尊敬していくくだりが次のような二人の会話で表現されています。
「助勢がいりますか」
「いや、一人で間に合う」
「しかし齢が齢でござるゆえ」
「バカを申せ」「まだそこまで老いてはおらんわ」
藤沢周平さんは、終章で孫左衛門にこのように語らせています。
「−−生きていれば、よいこともある」
老いの身であっても、死を待つ身であっても、ここに存在することが誰かのためになるのであれば、それは望外の幸せなのです。
残り少ない時間、残り少ない力が誰かのために使えるのであれば「生きていれば、よいこともある」のです。
久し振りの周平さん、掌編でしたが十分楽しめました。
◆日本アカデミー賞
「北の零年」「蝉しぐれ」「パッチギ」「亡国のイージス」等話題作の多かった年でしたが、今年の日本アカデミー賞は「ALWAYS 三丁目の夕日」が選
ばれたそうです。
「三丁目・・」は、私も見てこのコラムでも紹介(残
日録:05/12/06)しました。
13部門中12部門の賞を受賞したそうです。
吉岡秀隆さんが優秀主演男優賞を受賞、薬師丸ひろ子さんも優秀助演女優賞等々、、、
よい映画でしたが、各賞が一つの作品に偏るのは何故なのでしょうか?
「三丁目・・」は続編の構想もあるそうです。楽しみですね。
主な受賞者
◇優秀作品賞
「ALWAYS 三丁目の夕日」
◇優秀監督賞
山崎貴(ALWAYS 三丁目の夕日)
◇優秀脚本賞
山崎貴・古沢良太(ALWAYS 三丁目の夕日)
◇優秀主演男優賞
吉岡秀隆(ALWAYS 三丁目の夕日)
◇優秀主演女優賞
吉永小百合(北の零年)
◇優秀助演男優賞
堤真一(ALWAYS 三丁目の夕日)
◇優秀助演女優賞
薬師丸ひろ子(ALWAYS 三丁目の夕日)
◇優秀音楽賞
佐藤直紀(ALWAYS 三丁目の夕日)
日本アカデミー賞公式
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