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06/03/27 夜更けて山頭火を読む

 眠れぬ春の夜に、酒を飲みながら「山頭火の本」(春陽堂版)の中から山 頭火の後援者であった大山澄太さんの「山頭火の言葉」(別冊2)を読む。

◆素直なこころ
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まずしくともすなほに、さみしくともあ たゝかに。
自分に媚びない、だから他人にも媚びない。
気取るな、威張るな、角張るな、逆上せるな。(昭和8.1.6)
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 「自分に媚びない、だから他人にも媚びない」
 他人には媚びたくないと思いながらも、理の通らない話にも調子を合わせている自分を見ると情けなくなります。
 尖っていた若いころの方が、私らしかったのでしょうか?

 寂しさや貧しさから、どうしたら逃げ出せるかとばかりを考えている私には、背筋を伸ばさねばならない言葉です。
 山頭火は酒と親しみ、酒と戦ってきたような人でしたが、いつも自分をしっかりと見つめていたのですね。

 そんな時期にこんな句があるそうです。
 ”こころすなほに御飯がふいた”

 そして、大山澄太さんにこんな風に言っていたそうです。
 「澄太君、のんた。心がすなおでないと、まいにちまいにち炊く御飯が、うまく出来ないものだよ。わしは御飯を炊く時には、ほかのことをせず、考えず、一 心に御飯についている。その時の心が無心であたたかに、ゆったりしていると、ご飯もまた、すなおに、一つのリズムをもってほんがりとできてくるものだよ」

 竈の前に座り、チロチロと燃える火を一心に見ながら御飯の炊けるのを待っている山頭火の姿が浮かびます。

◆命の重さ
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水仙を切るために指を切つた、赤い血が流れるのは不思議のような気がした、水仙は全身を切られた、指を傷づけるぐらゐは何でもない。(昭和8.1.21)
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 其中庵の庭には先住者が植えていった水仙があり毎年花をつけていたそうです。
 水仙を切るつもりの刃物で指を切って、改めて水仙の命に思いを馳せたのですね。
 一本の草の命と自分の命が同じ重さを持つものだと思う気持ち。

◆酒
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   酒に関する覚書
酒は目的意識的に飲んではならない、酔は自然発生的でなければならない。
酔ふことは飲むことの結果であるが、いひかへれば、飲むことは酔ふことの原因であるが、酔ふことが飲むことの目的であってはならない。
何物も酒に代へて悔いることのない人が酒徒である。
求むるところなくして酒に遊ぶ、これを酒仙といふ。
悠然として山を観る、悠然として酒を味わふ、悠然として生死を明らめるのである。(昭和8.7.20)
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 節酒もままならぬ筆者も身につまされる「覚書」です。
 私は、酔うために飲むことも有り、悔いを残し、酒に遊べず、、、何とも情けない酒飲みです。
 求むるところなくして酒に遊んでみたいものです。

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△自己を欺く勿れ、−自分に嘘をいはせない生活、酒を愛し、酒を味わひ、酒を楽しむことは悪くはないが、酒に溺れ、酒に淫することは許されない。
だらしなく飲みまはるくだらなさ!
△私が生かされてゐる恩寵を知つてゐるかぎり、私はそれに対して報謝の行動をしなければならないではないか。(昭和9.11.26)
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 大山澄太宅に泊まった山頭火が夜中に起きだすので澄太さんは便所かと思ったそうですが、山頭火は夜に飲んだ酒の残っているのが気になって寝られないと、 酒瓶の底の残 り酒をコップに注いで飲むようなことがあったそうです。

 私の今宵の酒は、少し酔って眠りに就きたいための酒です。
 酒に何も求めず、悠然と酒を味わえるようになりたいものです。

◆焚き火
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火というものはまことになつかしい、うれしい、ありがたいものである、ぬくいといふよりあたたかいといふ言葉がそれをよく表現する、肉体をぬくめると同時 に心をあたゝめてくれる。
乞食や流浪者はよく焚火をするといふ、私もよく火を焚くのである、そして孤独のもつれをほぐすのである。・・・(昭和9.2.7)
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 低山であっても、山中でひとり夜を過ごす時、焚き火の物理的な温かさだけでなく、火の色、匂い、煙が心を落ち着かせてくれます。
 「孤独のもつれ」は何でしょう。

 ひとりでいると悩みや愚痴が滓のように心の底に沈殿し、越し方行く末を思うとこんがらがってしまう。焚き火の前で暖かくなった心がほぐしてくれ山頭火の 命の火をかきおこしていると大山澄太さんは解説されています。


 ”捨てきれない荷物のおもさまへうしろ”
 今夜はこんな句を思い起こしながらの一杯でした。
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