06/04/19 佐野
洋「蝉の誤解」
佐野洋さんの本を紹介するのは久しぶり
です。今回は昆虫をキィワードにした短編集「蝉の誤解」を紹介
します。
佐野洋さんの作品には、各章の一文字目を繋げて読むと犯人を示唆するような言葉になったりと、いろいろとおしゃれな仕掛けがあったりします。(作品名を
正確に覚え
ておりません)
今回も登場人物の名前や職業などに仕掛けがあるのかと各編に登場する人物などを列記してみましたが、私の思い込みだったようです。
話の艶っぽさもついでに書いておきました。白い星(☆)はほんの少しの意味です。
何篇かを紹介します。
◆蟻のおしゃべり
艶っぽくてお洒落な佐野洋さんらしいストーリーです。
杉岡は、総務部の中井和恵と名乗る女性から「私と『蟻のおしゃべり』をしませんか?」と、美佐子との情事のための待ち合わせに使っていた喫茶店に呼び出
されます。
「蟻のおしゃべり」は、二人だけの秘密の言葉です。なぜ、中井和恵が知っているのだろう?
明るいどんでん返しが楽しい一編です。
◆ミドリシジミの知恵
警察を退職し妻の実家のペットショップを継いでいる岩田は、町の動物愛好家の集まりで動物に関連した犯罪の話をすることになります。
女性の声でマンションの部屋に女性の死体があるとの110番へ通報があり、警察官が駆けつけると部屋の住人・小宮靖子が死体で発見されました。
靖子の住むマンションは、靖子の給料では住めないような高級マンションです。パトロンの存在が一番に疑われますがその存在がつかめません。
動物の「空間的すみわけ」「時間的すみわけ」が謎解きのキィワードになります。
キイロヒラタカゲロウは上流域に、ナミヒラタカゲロウは中流域にと空間をすみわけて棲息しているそうです。
シジミチョウの仲間のアイノミドリシジミは早朝から午前9時ごろまで、それ以後はメスアカミドリシジミが活動をするように時間をすみわけているそうで
す。
◆蓑虫の計算
出張で故郷の町を訪ねた志賀は、同級生の飯島に「蓑虫」というバーに連れられていきます。
妙な店名「蓑虫」の名付け親は飯島だとのこと。飯島とママの真理子の関係は?
「蓑虫」にかけられた色紙には「父よ、父よと はかなげに泣く」と書かれています。
私は読んだことがありませんが「枕草子」の41段(40段?)「虫は」に下記のような文章があるそうです。
「虫は 鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひをむし。螢。」の後に、
「蓑虫、いとあはれなり。鬼のうみたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて、『今、秋風吹かむをりぞ、来むとする。
待てよ』と言ひ置きて逃げて去にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、『ちちよ、ちちよ』と、はかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
」とあります。
「−蓑虫は、姿形が、親に似ていない。つまり『鬼の子』であり、もしそうなら、心も鬼のように恐ろしいに違いないというので、親はこどもに汚い着物を着
せたまま、置き去りにしてしまった。ところが秋になって風が強くなってくると、こどもは親が迎えに来てくれるものと考え、『父よ、父よ』と呼び泣いてい
る。」(引用)
蓑虫の雄の成虫は巣を捨てて飛び立っていくのですが、巣の中の雌のフェロモンに誘引されて雄が飛んできて交尾をするそうです。(種類により違いはあるそ
うです)
◆蠅の美学
いまどきの都会のこどもたちは蠅を知らないそうです。
授業でクラスのこどもたちが蠅を見たこともないのに驚いた私は郷里の兄に頼んで蠅を捕まえて送ってもらうことにしました。
懐かしい蠅取りの道具がいくつか出てきました。
▽蠅取りリボン
カモ井加工紙株式会社のサイ
トに、蠅取りリボン等の写真があります。
私の子供のころから蝿取り紙やリボンは「カモ井」でした。製薬会社ではなく紙屋さんだったのですね。
▽蠅取りガラス
私の覚えている蠅取りガラスは「福岡県
宇美町立歴史民族博物館」の収蔵品リストにありました。
http://www.rekishi-umi.jp/collection/contents/856.html
もう、博物館に展示しなければならないような物になっているのですね。私もそろそろ博物館へ!
文中では「『長さ1メートル以上あるガラスの管でね。直径は3センチぐらいかな。下の方はボールのようになっていて、そこに水を入れる。その逆の方は、
ラッパのような形をしていて、そこが蠅を取り込む口なんだな』 蠅は、天井によくとまる。そこで、蠅取りガラスのラッパの部分を、下から蠅にあてがうと、
蠅がガラスの管を通って、水の入ったボールの部分に落ちる。そういう形式のものだという。」(引用)
蠅が事件の解決に一役買うというストーリーでした。
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