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北朝鮮の核実験に反対して、関係諸国 に非核兵器地帯の拡大を訴える

 広く知られているように、非核兵器地帯は、東南アジア(一九九五年バンコク条約)、アフリカ(九六年ベリンダバ条約)に拡がっている。さらに冷戦下にお いて成立していたラテンアメリカ(六八年、トラテロルコ条約)、南太平洋(八五年、ラロトンガ条約)を加えるなら、南極を含む南半球全体が非核兵器地帯と いう光明に照らされているといってよい。当然、この国際条約による断乎たる南半球諸国の行動は北半球へも好ましい影響を及ぼして、いまでは大気圏外の宇宙 も、海底も非核兵器地帯になっている。
 加えてわれわれは、今年九月八日に調印された中央アジア非核兵器地帯の実現に、わが日本政府の大いなる協力があったことを知って誇らしく思い、わが国の 民間に東北アジア非核兵器地帯構想のあることを知って人類悲願の核廃絶への、一条の、しかしたしかな光を見てもいた。しかも、この十月三日の朝鮮民主主義 共和国(北朝鮮)外務省の声明に、「北朝鮮の最終目標は、朝鮮半島とその周辺から核の脅威を根源的に取り除く非核化である」と明記されているのを知って、 北朝鮮もまた東北アジア非核兵器地帯を望んでいるのだと、その声明を歓迎したのでもあった。
 しかるに六日後の十月九日午前十時三十五分、北朝鮮北東部で核爆発と思われる振動が確認され、北朝鮮の中央放送は昂然と、地下核実験を実施したことを発 表した。これは国際社会を愚弄する言動であって、もちろん許されないばかりか、そのつけはかならず北朝鮮そのものへ回って行くことを厳しく忠告するととも に、われわれは、朝鮮半島や日本を含む東北アジアの安全を希求する人間として、また非核兵器地帯の拡大を願う人間として、このたびの暴挙に対して、それぞ れの全存在を賭けて反対しつつ、戦争を放棄した憲法を持つ国の人間として、また広島、長崎の悲劇を体験した被爆国の人間として、北朝鮮および関係諸国に、 以下の三カ条を提案する。

一、 北朝鮮は「アジア非核化の理念」に立ちもどり、核兵器開発をただちに中止すること。
二、 国連を中心とする国際社会は、この事態に対し、武力的な脅威によってではなく、一致協力した叡智縦横の外交によって解決へと導くこと。
三、 他国に核の放棄を求めながら、自国だけは核兵器を持ち続けるという姿勢では説得力を欠くゆえに、これを機にすべての核保有国は真摯に核廃絶に取り組むこ と。

 そもそもそのためにこそ、九六年九月、国連において、発効要件国四十四カ国が、あらゆる核兵器の実験的爆発を禁止した「包括的核実験禁止条約 (CTBT)」の条文に合意、うち三十四カ国が批准したのではなかったか。
 右の諸条件を、勇気をもって慎重に実践するならば、やがて北半球が非核兵器地帯で埋め尽くされる日は近い。それは断言できる。
 重ねて北朝鮮および関係諸国に訴える。核兵器は決して安全と幸福を産まない。それらが産むのは、地獄の悲劇だけである。

                                                          二〇〇六年一〇月十六日
                                                          社団法人 日本ペンクラブ
                                                                      会長 井上ひさし

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