07/11/28 田
辺聖子「川柳でんでん太鼓」A
オーストラリアの総選挙で、現
職の首相も落選、「対米従属からの脱却」「イラクからの撤退」「京都議定書の批准」などを掲げて戦っていた野
党・労働党が勝利し保守連立政権が敗北したと報じています。
ブッシュの「テロとの戦い」のお仲間はどんどんと減っていきました。
訪米した福田首相は、ブッシュの「テロとの戦い」を支持することをブッシュとの会談後の記者会見で述べています。
「アフガニスタンを再びテロの温床としてはならない。テロとの戦いに
日米両国と国際社会がともに引き続いて取り組んでいくことでも一致した。」
前回
に続いて、田辺聖子さんの「川柳でんでん太鼓」を紹介
します。
田辺聖子さんは川柳には二つのタイプがあるとされています。
・タハハ川柳:人情世態の機微をうがって、思わずオトナを「タハハハ・・・」と笑わせる川柳
・うーん川柳:一読して、「うーん」と唸(うな)らせる川柳
そして、「しみじみ川柳」もあるのかしらと。
時実新子さんの句集「有
夫恋」を、田辺聖子さんは「珠玉にして匕首の句集」と評されています。
切っ先の鋭い匕首の句をいくつか紹介します。
◆雪の夜の惨劇となるベルを押す(時
実
新子)
愛すべき人を訪ね来たのに惨劇を予想してしまう女、何も知らずにいる男。
一幕の芝居がイメージできます。
◆五月闇(さつきやみ)生みたい人の子を生まず(時実新
子)
「五月闇」という言葉の持つおどろおどろしさに、女の強かさを感じま
す。
いつもいつも、男としてはぼんやりしておられない句が続きます。
軟弱な男の胸にぐさりと突き刺さる、新子さんとは少し趣の違う森中恵美子さんの句を紹介します。
◆子を産まぬ約束で逢う雪しきり(森中恵美子)
子を産めぬ関係なのでしょうね。大人の恋愛(不倫)の句は心に沁みま
す。
◇田辺聖子評「いかにも『お取り込み中』というような、こみ入った
境遇のせつない恋と、その場の情景を活写して、さすが練達の女流の冴え。」
森中さんの他の句も少し紹介します。
◆逢(お)うていてさえベトナムの話する(森
中恵美子)
近頃の人のように、ベトナム旅行の話ではなく、久方の逢瀬なのに男は理屈っぽく「ベト
ナム戦争」を論じていたのですね。
◇田辺聖子評「男のたたずまいを描いて絶妙である。(ベトナム戦争なんかどうでもええやないの、二人でいる時間が勿体ないのに!)とイライラする、これ
こそ女心なのである。」
◆はなれ住むただ長生きをして欲しい(森
中恵美子)
なぜか、すっきりと胸に入った句です。
思い出の人は、その消息も知り得ませんが、そろそろ長生きをしていて欲しいと願う歳になってきました。
◆愛咬(あいこう)やはるかはるかにさくら散る(時実
新子)
生々しいことをうたっているのに、ほんわかとするのは作品の力なのでしょうか?
クミコさんの「心の指紋」という歌の歌詞(作詞:松本隆)を思い
出しました。
♪あなたの指紋が残ってる
♪背中や乳房や腿の内側
♪自分に嘘などついたって
♪愛した証拠が残ってる
◇田辺聖子評「夢の瘢痕(はんこん)はさくらなのか、さくらは目くらむ恋のうつつの吹
雪なのか、裸身におしあてる愛の印判。かぐわしいエロスが匂い立ち、心を振盪(しんとう)させる。そしてまなうらいっぱいにさくらは舞い散る。」
◆男皆阿呆(あほう)に見えて売れ残り
(山川阿茶)
最近は、自分の稼ぎで自立して生活をされている女性が多くなりまし
た。
「阿呆な男と一緒になって、なんでくろうせなあかんの?」
結婚しない女性が多くなって、未だに「家」を意識する男らは結婚できません。
◇田辺聖子評「作者はそのへんのからくりを見届けていて、自嘲のていにみせかけつつ、わが人生に満足し、肯定いられるよう
です。」
◆寒菊の忍耐という汚ならし(時実新子)
田辺聖子さんも書かれていますが、「忍耐」とは、強者が弱者に犠牲を押しつける言葉のよ
うに感じます。
◇田辺聖子評「忍耐という語から受ける感じは、私には反撥をもよ
おさせるものがあ
る。時実新子さんはそれを『汚ならし』と喝破(かっぱ)し、寒菊の、そそけた姿に象徴させる。」
◆妻が死んだら男さらさら興味なし(時
実新子)
笑いました。
妻が死んで、ヤモメになった小汚い男に用はないということでしょうか?
はたまた、男をめぐり張り合う女がいなくなっては、その男にも興味なしということでしょうか?
◇田辺聖子評「男の中には、妻を失うと魅力が半減する人がいるのは事実。妻がいると思
うと闘志をかきたてられるのであろうか。」
◆石棺の手ざわり剃りあとに似たる(時
実新子)
石棺の撫でた手が髭剃りあとの男の肌を思い出し、心は、どんな男をおもいだしたので
しょう。
◇田辺聖子評「剃りあとは、男の髭の剃りあとである。いつもながら快い衝撃を与えられる新子川柳である。」
「川柳でんでん太鼓」には、
800句余りの川柳が紹介されています。
もう少し、紹介したいと思います。
田辺
聖子さんは、前から気になっていた鶴彬の句もたくさん紹介されています。じっくりと読んでみたいと思い、「日本の古本屋」から
「鶴彬全集」を取り寄せています。
そのうち紹介できたらと思います。
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