07/12/01  田
辺聖子「川柳でんでん太鼓」③
何度か転職を繰り返してきまし
たが、不本意に解雇されての失業は初めてのことです。
実質は、１２月末解雇なのですが、解雇を通告されたものに仕事をする気もありません。
身体を、心をどこに持って行って良いのか不安定な状態です。
まあ、本がゆっくり読めるのは良いことでしょうか。
さて、今回も田辺聖子さんの「川柳でんでん太鼓 」の紹介
します。
川柳は、読めば読むほど面白く深いものです。
◆ついていてあげねば駄目な人と添い（吉沢蘇雨子）
女性は、阿呆な男ほど可愛いもののようですね。
母性でしょうか。
◇田辺聖子評：「男は女がケロリとしているほうが気楽なのとちがいますか、少なくとも私はそう思う。」
◆逢うてきたうしろめたさを犬が嗅（か）ぐ（湯北）
うしろめたい時には、小さな言葉の端々にも過剰に反応してしまいます。
犬の所作にも、悟られまいとの思いが出るのでしょうか。
◇田辺聖子評：「犬は何気ないさまなのであるが、こっちの気分一つで、うしろめたくなる。幸い犬は、人にいいつけたりしないものの、脛（すね）にキズ持つ
みは、犬にさえ気が引ける。」
◆行末をはげしく問いぬキリギリス（時実新子）
相変わらず、新子さんの句は厳しいです。
私などは、自らの行く末をコントロールできない「アカンタレ」ですから、キリギリスの責めるような鳴き声には身につまされるものです。
◇田辺聖子評「身の行末をあれこれ思い惑い、つきつめた心地にふさがれゆく。その思いに重ねるには、恩も字面（じづら）も『キリギリス』がぴったり、あと
へ退（ひ）けぬというはまりかたで、新子さんの句はいつもぎりぎりのところで成立しており、待ったなしの気魄がある。」
◆作業衣は独創的に着こなそう（那須鎮彦）
作者は作業衣を着るような職業の方でしょうか？
通り掛かった工事現場で、作業着を格好良く着こなしている方を見ることがあります。
仕事ぶりが思い浮かびます。
◇田辺聖子評：「作者に『作業衣』という連作があり、＜むなしさがないとはいわぬ作業衣＞＜凡人の四季を彩る作業衣＞＜ラーメンが好きだたまらぬ作業衣＞
などとあるが、独創的に着ることで川柳のおかしみを得た。」
◆美しく老いるに矢張り金が要り（小林愛穂）
そうですね。
小奇麗に生きるためには、少しばかりの金員も必要かと思っていますが、田辺聖子さんの評は「年取ったら、金の要らんように生きたらよい」といわれていま
す。
◇田辺聖子評：「この句もおかしいが、いや、そういったものでもないのだ。いま、手のうちにあるもので充分いける道もあり、これについてあるお医者サンは
（ウチのオッチャンではない）いみじくもいっていられたが、／『だいたい年寄って老眼になるというのは、よけいなもン見んでもエエ、いうことやし、足腰立
たんようになるということは、沢山（ようけ）歩かんでもエエ、いうことやし、耳が聞こえんいうのは、要（い）らんこと聞かんでもエエ、いうことや自然に
やっとったらエエねン』」
◆印象はうどんのまずい町だった（岩井三窓）
先日は、どの店に入っても美味しいうどん屋の町・高松に行ってきましたが、うどんだけでなく不味い食べ物を喰わされる街があります。
食べ物の印象が、その街の印象を決めてしまうことがあります。人情もまた。
◇田辺聖子評：「たしかに。／そういうこと、あります。／ことに東京は。」
平和を願う句を紹介します。
◆ガラスの中の平和充実感ありや（本田南柳）
敗戦から６０年の長きにわたり平和が続いています。
この「平和」の危さを感じざるを得ないこの頃です。
◇田辺聖子評：「私は、／『だましだまし持っていく』（あるいは『保っていく』）／という言葉が好きなのだが、これは平和外交の一つの妙諦（みょうてい）
ではないかと思っている。信条は原則としてもっていていも、そこは融通を利（き）かして生きのびる、ということが大切。ヒットラーや東条みたいな、信念に
殉じる人が出て来て采配を振られては、とても平和が四十年もつづかな。」
◆どげんもんか煮え湯かぶればわかるじゃろ（和田たかみ）
作者は長崎の被爆者だそうです。
「生まれたばってん小頭症で死んでしもた」など、被爆者ならではの低く重い言葉続きます。
◇田辺聖子評：「失語症になやむ人のように絶句し、やっとつぶやきを洩らすに似ている。長崎弁がこのように沈痛の思いを表現するに効果のあるとは、はじめ
て私も知った。／ニッポンが負うた手傷はまだ深いところで癒（い）えていない。衝撃を与える時事川柳として推（お）す。／戦争は終わった。あまたの犠牲者
を出して。」
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