08/01/18 佐
野洋「選挙トトカルチョ」
久し振りに佐野洋さんの本を紹
介します。「選挙トトカルチョ」という
短編集です。
「小説推理」の07年4月号〜9月号に発表された6篇からなっています。
◆昔の嘘
余命2ヶ月という元警察官の老人が会って話がしたいと言ってきた。
老人は、13年前に殺人事件の死体発見の経緯について聞きたいという。
当時の供述に不自然な部分があると言う。
人並み外れた特殊な能力を持つ人と、特殊な能力を公にしたくない人がついた嘘。
◆ペンギン体験
中絶した子供の生まれ変わりがペンギンだと言い張る女。
佐野洋さんが週刊読売に書かれた記事「南極紀行・流氷群に死の影を見た!! 危うくペンギンに生まれ変わるの記」も物語りの1つの要素となっています。
1973年に敢行ツアーで南極を訪れておられるそうです。
どんでん返しが面白い一編です。
◆選挙トトカルチョ
元警察官から佐野洋さんへの手紙が狂言回しをします。
親子喧嘩の末、「死んでやる」と家出をした父親。その父親が応援演説をした県会議員候補者がトップ当選しました。
記者クラブでのトトカルチョでトップ当選者をただ一人当てた記者がいた。
元警察官の推理は?
選挙の当選者を対象にしたトトカルチョは現在は違法だそうですが、8年前までは違法ではなかったそうです。
◆烏兎惣惣
「うとそうそう」と読むのだそうです。
カラスは太陽に住み、兎は月に住む、怱怱は速いこと、即ち月日の経つのは速いという意味だそうです。
カラスは知能が高いそうです。そしてそのカラスの言葉がわかるという少年が、行方不明になっている子供の居場所をカラスから聞いたという。
◆爪占い
人の爪を見て占うことができるというゴルフのレッスンプロに爪を見てもらうと「ト
ラウマとなって結婚できないでいる」といわれる。
ドッキリカメラのような大どんでん返しが楽しい一編です。
◆蝶の写真
P大占い研究会と名乗る学生から、ラッキーアイテムは蝶と占われた女
は、交通事故で死んだ息子が蝶になったと蝶の写真を持ち歩く男と出会います。
息子の死の遠因を突き止めた男は?
佐野洋さんのミステリーは、いつ読んでも楽しいものです。
佐野洋さんは1928年生れだそうで、今年80歳になられるのですが、世の中のことにも敏感な感覚をもたれています。
◇個人情報保護
病院や学校などが患者や学生の情報を出さなくなったために新聞社などの取材が難しくなっているそうです。
佐野洋さんは、それらの制約を無視せず、小説の中に取り込まれています。
◇匿名報道
佐野洋さんは、匿名報道を支持されているようです。元警察官に次のように語らせています。
「小生はかねがね、新聞など報道メディアが、事件に関して、被疑者、被害者の実名を報道することに疑問を持っていたのです。」
「犯罪報道それ自体は、防犯の見地からも必要なのでしょうが、その件に関して意味があるのは、『何歳のどんな職業の男が、これこれのことをした』と言う
事実であって、普段近づいたこともない場所に住む人間の実名を知ったところで、どうということはありません。」
同感です。
◇携帯電話
携帯電話がストーリー展開に意味を持つ話もありました。
警察は、被害者の交友関係を調べるのに苦労をしていたそうですが、携帯電話が普及した現在は携帯電話の通話記録などを見るだけで簡単に交友関係が分かる
とのことです。
アドレス帳も含めて大変な情報を持ち歩いているのですね。
この本では、人間の特殊な能力がテーマとなっていて、その根拠となるような本が紹介されています。
◇高田明和「人体・ふしぎ発見」
◇黒沼健「地下王国物語」
◇マジョリー・F・ヴァ−ガス「非言語コミュニケーション」
◇佐々木洋「カラスは偉い」
◇橋本健「超心理学入門―あなたのかくれた能力を開発する」
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