08/02/15 佐
野洋「歩け、歩け」
佐野洋さんの「歩
け、歩け」を
紹介します。
この本は1964年から2005年までに発表された作品の中で、単行本に収録されていなかった作品を纏めたものです。
64年も前の作品が今でも違和感なく読めます。佐野洋さんの作品は時の流れを越えて楽しめる普遍性の高い作品だと思います。
収録作品と発表年(雑誌の発行年月)は以下のとおりです。
・「お望みどおり」(1964
年1月)
・「透明な仮面」(1972
年2月)
・「高級家庭教師」(1977
年6月)
・「十五年目の子」(1979
年5月)
・「古い虹」(1999
年8月)
・「赤い骨」(2000
年1月)
・「銀座の空襲」(2001
年1月)
・「ミス・ショット」(2001
年1月)
・「歩け、歩け」(2005年8月)
いくつかを紹介します。
◆お望みどおり
「女の怖さ」の物語といえば誤解を生じるでしょうか? でも、男には怖い話です。
男にとっては「軽い言い合い」をした翌朝、妻が「愛しています。だから、あなたのお望みどおりにいたします」と
書き置いていなくなります。
言い合いの原因は、会社の帰りに寄った眼科の女医・邦江が色っぽかったことを話したことでした。
妻は、その女医の悪い噂を話し、女医に好意を持つ夫をなじったことから言い争いになります。
家をでた妻は、同級生の久仁枝に「一人では目薬もさせないから・・・」と依頼していました。
彼女の「望みどおり」とは。
男は土曜日の会社帰りに眼科に立寄っています。この頃は未だ週休二日が一般的でなかったのですね。
◆十五年目の子
「自分みたいなくだらない男の血をひいた子どもは可愛そう」と子どもをつくろうとしなかった夫が、「そろそろ、子どもをつくろうか」と言い出しました。
栄子は、「高年齢出産は大丈夫だろうか?」と姉の冴子に相談します。
15年前のあの夜、冴子の婚約者が何ものかに呼び出されて殺されていました。
殺人事件の時効は15年、果たして。。。
◆銀座の空襲
1945年3月10日、わずか2時間あまりの間に10万人をこす市民が殺された3.10東京大空襲の前にも東京には何度かの空襲がありました。
この物語は1945年1月27日の有楽町・銀座地区への空襲がモチーフとなっています。
銀座に映画を観にきていた旧制中学生の船山と飛田は、空襲にあい逃げ
込んだ防空壕で女理容師と知り合います。
亡くなった旧制中学の同級生の船木を偲ぶ会が赤坂のホテルで開かれ、会のあと、「私」と米山、飛田の3人は銀座のクラブに流れた。
銀座の空襲時のことを話し出した飛田に、クラブのママは「自分の母も美容師をしていた。血液型は?」と話します。
船山がママの父親なのだろうか?
◆歩け、歩け
高村光太郎が作詞した1941(昭和16)年のNHK国民歌謡「歩
くうた」がモチーフです。
「私」は、散歩のときの掛け声に、父から教わった「歩け、歩け」の歌を知らず知らずに口ずさんでいます。
娘が携帯電話の着メロに、「歩け、歩け」のメロディーを入れてくれました。
着メロを聴いた勤め先の社員が、「祖母の思い出の歌だ」と。
祖母が小学6年のとき、攀登棒(はんとうぼう)に登っていると、男の子たちが「歩け、歩け」の歌を歌いながら棒を揺する悪ふざけをしてきた。(今の登り
棒のようです)
気丈な祖母は、いたずらな男の子めがけて飛び降りたそうです。下敷きになった男の子は骨折をしてしまいました。
攀登棒を揺するいたずらは、男の子の好意の裏返しだったのでしょうか?
◆映画
「君の涙ドナウに流れ ハ
ンガリー1956」
中々の映画でした。是非、ご覧ください。
ソヴィエト連邦の実質的な支配下にあった1956年のハンガリーのブタペストで起こった革命(動乱とも呼ばれる)に巻き込まれる活動家の女学生と、メル
ボルン・オリンピックを目指す水球の選手の自由への闘いと恋愛の物語です。
冒頭に、モスクワでのソ連とハンガリーの水球の試合のシーンがあります。
アラブの笛と呼ばれたハンドボールの試合のようなソ連に有利な判定を下す試合が映されいました。
宗旨国ソ連には、ハンガリーは何もいえない時代だったのです。
同じ民族同士が憎しみあい、殺しあうことの何ともいえぬ虚しさ。
ソビエト軍の侵攻によってブタペストの街が破壊されていく姿を、祖国が破壊されていく姿を異国のテレビで見るオリンピック参加の選手たち。
映画「サラエボの花」や「カルラの
リスト」など、東ヨーロッパの民主化をテーマにした映画が多く上映されるようになっています。
◇気になった言葉(曖昧な記憶です)
・水球選手の祖父の言葉:「自由のために、闘わねばならない時もある」
・ラジオ放送「ハンガリーを助けてください。言葉ではなく行動で!」
◇Webサイト
この映画のオフィシャルのサ
イトは、映画の時代背景などについても詳しく書かれていて有用です。
◇京都シ
ネマ
最近は、第七藝術劇場より、「潜水服は蝶の夢を見る」や「君のためなら千回でも」
など京都・四条烏丸の京都シネマに観たい映画がかかります。 |