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08/11/08 佐野洋「燃えた指」
 佐野洋さんの短編 集「燃えた指」を紹介します。
 05年から07年に雑誌にシリーズで発表された9編で構成されています。

 昔は単行本で出版されたもののうち評価(売上?)の高かったものが、数年後に文庫化されるという流れがありましたが、
単 行本で出版 後時間をおかずに文庫化、はじめから文庫での出版などと最近の文庫本の事情も変わってきたようです。

 この本も、「文庫オリジナル」と称する雑誌での発表→文庫での出版されたものです。
 文庫本は廉価に手に入ることと、巻末に「解説」が掲載されていることが多く読者には楽しみです。

 この本の解説は文芸評論家の郷原宏さんです。
 郷原さんの「解説」は、下記のような書き出しで始まります。

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 ミステリーを教養書として読むような野暮な人と、私は友達になりたくありません。ミステリーはエンターテイメント、すなわち娯楽のための文芸です。
 ・・・・・(中略)・・・・
 さりとて私は、ミステリーを読んで何も感じないような鈍感な人と、共に人生を語ろうとは思いません。「文芸は実人生の地理歴史である」という名言を吐い た菊池寛にならっていえば、ミステリーは人間の罪と罰を描いた「実人生の教科書」です。
 ・・・・・(中略)・・・・
 面白くてしかも実のあるミステリーを求める欲張りな読者にとって、佐野洋氏はまさにうってつけの作家です。
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 ミステリー、そして佐野洋さんを的確に言い得ています。
 佐野洋さんのミステリーはとにかく面白い。駄文ではその面白さを伝えることができません。
 そして佐野洋さんは、言葉遣いにこだわる作家です。この作品でも登場人物たちの言葉遣いが話題になっています。


 高校の国語教師・詩乃は、生徒からの提案で新しく新しいクラブ活動の顧問を引き受けることになりました。
 そのクラブは「敬老談話会」と称して、市内の老人を訪ねて昔の話を聞こうという同好会です。
 老人を囲み詩乃が進行役となって座談会のように話が進んでいきます。
 9編中のいくつかを紹介します。

◇燃えた指
 先の戦争中に中学生(旧制)の生徒だった大学教授は、寝ていて猫に指を噛まれ消毒のために噛まれた後を消毒のために焼いたという。その傷口に包帯をして 勤労動員に行き包帯が滑って指を切断してしまった。
 猫が人間に噛み付くことがあるのか?
 大学教授のいうことは本当だろうか?

◇幼い友情
 幼いころに淡い恋心を抱いた少女との約束を守って幼稚園を設立したという園長の話に、生徒の一人は自分の大叔母がその時の少女ではないか、その大叔母は 行方不明だという。

◇困った老人
 大正末期(第一次世界大戦後)に世界で軍縮に向かおうとしている時、日本の学校に「軍事教練」が取り入れらたのは軍人の天下りポストを確保するためだっ たのではないかと老人がいう。
 学校に配属される軍人は、配属将校は老齢の将校、教練科の教員は負傷帰還した将校だった。老人は、ある日銭湯で教練科の教師の妻の裸体を見てしまった。

◇言葉の研究
 出征直前に陸軍中尉と結婚した看護婦見習いの女性は、勤め先の軍需工場に勤労動員で来ていた中学生と町で出会い氷水でもどうかと家に誘った。
 数日後に警察に引っ張られて、夫の留守中に男を家に入れるとは、貫通罪だ、住居不法侵入の共犯だと責められた。

◇密着と直撃
 他の話にも誤った言葉遣いを指摘する話題が出てくるのですが、この話は言葉遣いがテーマになっています。
 元通信社の記者だった老人のテレビで使われる言葉遣いを批判します。
 <単独インタビュー>一般的にはインタビューは1対1でやり取りするものだから「単独」は物欲しげである。
 <独占インタビュー>特別のネタでもないのに「独占」と自慢することは羊頭狗肉の恥知らずである。
 <密着>人目を惹きたいために、大げさな表現を多用する。言葉の品位に無神経である。
 <号泣>号泣は天にも届けと泣くこと。テレビのヴァラエティ番組などでもらい泣きするのは「涕泣(ていきゅう)」が正しい。
 <生中継、生放送>生足、生身、生首などはわざわざ「生」をつける必要がなく品もない。生放送も同様に品がない。
 <直撃>元記者が少年のころ、家の庭に「焼夷弾なら直撃でも大丈夫」と思われる立派な防空壕があった。
       空襲警報のサイレンが鳴らされている時、道端で戸惑っている女性を防空壕に案内した。
       ところが、爆撃を終えて帰還する戦闘機が捨てていった爆弾の直撃を受けてその女性は死んでしまった。

◆ 懸賞論文と航空自衛隊
 
  各紙の報道によると、アパグループが募集した「『真の近現代史感』懸賞論文」には235件の応募があり、そのうち95件が航空自衛隊員人となったそうで す。
 応募者の4割強が特定団体からとは異常な「懸賞」です。
 ※各紙とも、
田母神前航空幕僚長を員数に入れず、なぜか応募者を94人と報じています。

 内訳は、佐官級16人、尉官級73人、曹5人。ほとんどが自衛隊の幹部隊員です。
 航空自衛隊ぐるみの応募、航空自衛隊のための懸賞論文募集の様相です。

 航空自衛隊「小松基地金沢友の会」 はアパグループの元谷代表が会長を務め本部事務局はアパホテル金沢駅前店にあります。


 「自衛隊幹部の名前」で、「先の戦争を侵略戦争でなかった」と、いうことを社会に公にしたかった。その理由は何でしょう?
 幕僚長の名前で出せば、問題になることは十分想定できたはずです。
 11日の参考人招致で闇を明らかにして欲しいものです。
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