08/12/23 朝
日俳壇、歌壇から
22日付け朝日新聞の朝日俳壇、朝日歌壇より気になった
俳句や短歌を紹介します。
◆朝日俳壇
◇落葉踏む音荒き人やり過ごす(奈良市・帷子黎子;大串章選)
世の中にがさつな人はたくさんいます。
生来の気性は死ぬまで直らないことでしょう。そんな人と付き合うのは真っ平です。
ゆっくりと落葉の林を散策している私、無粋な人を早くやり過ごしてしまいたいことです。
◇鰭酒の一人芝居のやうに酔ふ(新潟市・岩田桂:大串章選)
「一人芝居の様に酔う」様がどのような姿なのか十分には分からないのですが、一人芝居の様に酔うてみたいと思いました。
◇行く先の決まり寒さのさほどにも(久留米
市・谷川章子:稲畑汀子選)
行く先が決まれば安堵感から寒さもさほど感じなくなるとの句ですが、行き先が決まらなければ寒さはいっそう厳しき感じられるということです。
寒空に首を斬られた人たちの行き先見えぬ年末は如何ばかりのことでしょう。
◇土に落つまだ青き実の口惜しかろ(東京都・衣谷ゆう:金子兜太選)
志半ばで倒れた人、若くしてあるいは幼くして亡くなった人を思います。
彼らの口惜しさが滲んできます。
◇青春を封印十二月八日(周南市・田中和女:長谷川櫂選)
その口惜しさ、無念さの一つが戦争です。
戦争は最大の暴力、幾万の人の青春を、命を奪ったことでしょう。
◆朝日歌壇
◇鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ捨てたのか(ホームレス・公田耕一:佐佐木幸綱選)
ホームレスの生活をしていても未だ脱ぎ捨てられない「もの」がある。
捨てられない「もの」が人間としての尊厳であるような。
◇炊き出しに並ぶ歌あり住所欄(ホームレ
ス)とありて寒き日(豊中市・武富純一:永田和宏選)
前掲の公田耕一さんの歌
(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ
が12月8日付け朝日歌壇に入選しています。
その歌に対する短歌、貧しくともぬくぬくと暖かい部屋に居て読むには辛い歌です。
◇言われるも言うも切なき「ありがとう」老々介護の年逝かんとす(浜松市・太田忠夫:永田和宏選)
老々介護は身につまされること。
今は使われなくなった「核家族」は「核」が老いて要介護者となり「各」家族となっています。
◇肝心なことは結局言えぬまま雨の東京駅に佇む(奈良市・杉田奈穂:永田和宏選)
遠距離恋愛でしょうか、昔のTVCMシンデレラエクスプレスを思い出します。
大切なことは軽々しく話せない、でもそのタイミングが分からない、あるいはタイミングを逸してしまった。
◆追悼の歌
人の死を悼むには短歌の様式が向いているようです。
12月5日に「九条の会」の呼びかけ人の一人である加藤周一さんが亡くなられました。
追悼歌を紹介します。
◇理と情のことの葉の意気とどめおかむさくら横ちょう師は過ぎゆくも(船橋市・相川茂信:佐佐木幸綱選)
「さくら横ちょう」は加藤周一さん作詞、中田喜直さん作曲の歌曲のタイトルとのこと。
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
想い出す 恋の昨日(きのう)
君は もうここにいないと
ああ いつも 花の女王
ほほえんだ 夢のふるさと
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
会い見るの時は なかろう
「その後どう」「しばらくねえ」と
言ったって
はじまらないと 心得て
花でも 見よう
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
◇戦後なる知識の分散その中の求心的知性加藤周一逝く(天童市・鴨田希六:佐佐木幸綱選)
◇「九条」を守りし旗手の小田実逝き意義を掲げし加藤周一も逝く(天童市・鴨田希六:高野公彦選)
◆人の死
前掲の追悼歌と同じように人の死を詠んだ歌が何首かありました。
◇大正末期霊柩馬車をつくりたる祖父を敬う火葬場に来て(八戸市・山村陽一:佐佐木幸綱選)
◇ふくよかな遺影のしたに横たわる小さき人の生を忘れじ(京都市・倉橋典:佐佐木幸綱選)
◇このあいだ葬儀で逢ったその人の通夜なり黒い服をまた着て(八王子市・相原法則:馬場あき子選)
◇自殺処理すみたる鉄路をしづしづと真夜に進めるわれらが列車(岡山市・梶谷基一:馬場あき子選)
◇戦時下を手をつなぎ逃げし兄逝けり混乱の上野吹雪の越後(川崎市・河野悦子:馬場あき子選)
◆クリスマス
クリスマス飾りに二つの句と歌がありました。
◇電飾を競ふ師走の家並かな(東京都・藤森荘吉:稲畑汀子選)
クリスマス用の電飾で飾られた家々が年々多くなっているような気がします。皆がキリスト教徒であるかのよ
うに。
◇聖書読むことなき人の灯(とも)したる聖樹美しければ切なし(横浜市・飯島幹也:高野公彦選)
選者の評は「クリスチャンから見た、一般の人々への柔らかい批判。」とあります。
無節操な日本人への「痛烈」な批判のように感じました。
数年前のニュースに、アメリカではこの時期がキリスト教のクリスマスだけでなく、ユダヤの「ハヌカの祝い」、アフリカ系米国人の「クワンザの祭り」が
重っているので「Merry Christmas」ではなく「Happy
Holidays」と呼称しようという人たちと、あくまでも「Merry
Christmas」だという人たちの対立が90年代から続いるそうです。
宗教を信じるか信じないか、どの宗教を信じるかなど多様な人々が暮らしているのですから、Happy
Holidaysと呼ぶのがよいような気がします。
因みにGoogleの「ホ
リデーロゴ」は99年以来、12月25日前後のホリデーロゴは「Happy Holidays」としています。
◆電車内俳句
JR東日本の中央線と京浜東北線の車内のディスプレイに、長谷川櫂さん監修の俳句が週に2句(月、木更新)解説とともに放映されているそうです。
◇山をぬく力も折れて松の雪 子葉
「八さん、この子葉って人はあの赤穂浪士の大高源吾だよ」
「討ち入りばかりか、俳句でも名を残しなさったんですねえ」
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