09/01/12
朝日俳壇、歌壇より
朝日新聞(1月
12日付け)の俳壇、歌壇より気になった句や歌をいくつか紹介します。
◆朝日俳壇
◇ぬくもりが消えてしまつたあの人の(八王子市・番場一枝:金子兜太選)
「ぬくもりが消えてしまつた人」はどんな人でしょう?
一読では死者かと思いましたが下の五で「あの人」とあり、熱の冷めた恋人かと思ったりしています。
◇初暦十二月まで繰ってみる(名古屋市・伊藤幹彦:長谷川櫂選)
「あるある」と思い読みました。
手帳や暦は12月までとりあえず開いてみる、確かに私もそうしていました。
◇また一句浮かんで消えて冬うらら(岡山市・光畑勝弘:長谷川櫂選)
浮かんで消えて、あるいは浮かんだものが後には陳腐なものであったりと散々な句作を繰り返しています。
◇手が紅くなる大根が白くなる(渋川市・山本素竹:稲畑汀子選)
冷たい水に藁すべを丸めて大根を洗いを手伝った子どもの頃を思い出しました。
今時の大きな農家は機械で洗うのでしょうね。紅と白の色の対比が目に浮かびました。
◇着ぶくれのなかにもお洒落ごころかな(さぬき市・原道子:稲畑汀子選)
他にも着ぶくれの句がありました。着ぶくれの句を作ってみたいと私も作ってみました。
拙句は「子雀の着ぶくれている日向かな」でした。
◆朝日歌壇
◇給料は「物件費」んてあつかはれ派遣社員に年の瀬迫る(鳥取県・中村麗子:永田和宏選)
労働者首斬りの歌が3首続きます。
派遣労働者の賃金が「物件費」とは腹立たしさを越えて呆れ返るばかりです。
派遣会社が労働者に支払う「賃金」は賃金ではなく「原材料費」、派遣先企業が派遣元会社に支払うのは「物件費」だそうです。「人間」を「物」としか扱わ
ない労働者派遣法の存在が間違っています。
◇契約の解除されしを告ぐる息子(こ)の顔に羞らいの色あ
るが哀し(日野市・大田原イツ子:永田和宏選)
契約を解除を素直に答えられない悲しみは如何ほどのことでしょう。
労働の場を、労働の権利を奪うだけでなく心までも傷つけいることを、首を斬った人たちは知るべきでしょう。
◇困りましたと最も困らぬ面々が雇用打切りなどを報じる(牛久市・伊藤夏江:佐佐木幸綱選)
新聞の紙面で言えば80%以上、テレビ番組では99%ほどが、社会の木鐸としての機能を失っています。
別の項でも書きましたが、テレビのアナウンサーが「世界的不況の影響で××社が500人の契約解除を・・・」と企業側の立場に立った報道をしてます。
労働者の解雇が不況の影響かどうか確かめることはしないのでしょうか?
◇少しずつ心しぼんでゆく母の手をとり歩く冬の日だまり
(札幌市・千葉隆平:永田和宏選)
我が母は90歳を超え惚けることもなく比較的元気に過ごしています。
ただ見るたびに小さく萎んでいく様子は見ていて辛いものがあります。
掲句のように「心しぼんでゆく」母を見ることはお辛いことでしょう。
母のことより自分の痴呆を心配しなければならない歳となっています。
◇定額減税が定額給付金となるまでの麻生首相の思考の回路(長野県・小林正:佐佐木幸綱選)
馬鹿宰相の思考回路はどうなているのでしょう。
今となってはあの馬鹿さは笑うしかありません。「平成廿一年」を「平成廿十一年」と得意顔に書いてましたね。
今朝の新聞では19%(08年12月:22%)、不支持は87%(同64%)と落ち込んでいるそうです。(朝日新聞)
◇水田の痕跡残すためだけにあれたる棚田の草刈る我は(防府市・重田正一:佐佐木幸綱選)
哀しい光景です。
山間部に拓かれた田んぼが荒れ放題になっている姿は幹線道路沿いにも広がっています。
昨年「事故米」と話題なったように、日本は米を輸入しているのです。
◇夫の裡に戦争いまだ終わりなく行軍と云いて徘徊する夜半(八代市・波村千代女:高野公彦選)
イラクからの帰還兵が物音に怯えている姿が映画「勇者たちの戦場」で描かれていました。
戦争という異常な状況に置かれた人間は、その恐怖は一生逃れられないのでしょうね。
◆第25回朝日俳壇賞
朝日俳壇の年間優秀句を4人の選者が一句ずつ選ばれています。
◇金子兜太選
目を抉(えぐ)るごとく光りて八月来(福生市・松崎佐)
松崎さんは1日1句以上、朝日俳壇に投稿を始めて14年だそうです。ご精進の賜物ですね。
先の戦争の傷跡を記憶しておくべき祈念日は年中にありますが、とりわけ8月はヒロシマ、ナガサキと敗戦の日を思い出さずにはおられません。
◇長谷川櫂選
アフガンの甘藷先生星月夜(東京都・吉田邦幸)
吉田さんは退職後初心者講座に参加し句集を出されている方を目標にされてこられたそうです。
アフガニスタンで農業指導をされていて殺されたペシャワール会の伊藤和也さんへの追悼句です。
◇大串章選
大地ゆるがし筍の出てきたり(合志市・坂田美代子)
坂田さんも句作20年のベテランだそうです。
◇稲畑汀子選
静寂はラグビーボール立ててより(静岡市・松村史基)
松村さんは16年前に初入選、以後44回の入選し100句入選を目指されているそうです。
◆難しい語彙
今週は難しい言葉が多く、浅学の私は少してこずりました。
◇過客(かかく)
行き来する人、旅人の意。
芭蕉の奥の細道に「月は百代の過客にして・・」という句
がありましたが、私は使ったことがありません。
▼冬温し松島に満つ客過客(塩釜市・杉本秀明:金子兜太
選)
◇蕪穢(ぶあい)
荒れた土地の意。
初めて目にする言葉です。難しい言葉があるものです。
▼蕪穢(ぶあい)にて平べつたい愛撫冬の
月(熊谷市・時田幻椏:金子兜太選)
◇われにひとつ死という宝
「死という宝」の意味が何度読んでもわかりません。
▼われにひとつ死という宝日向ぼこ(上越市・相川澄子:金子兜太選)
◇太白(たいはく)
太白星(たいはくほし)のこと、金星のことだそうです。
▼太白を置く短日の闇紫紺(長岡市・石田遊水:稲畑汀子選)
◇玻璃(はり)
ガラスの意。
▼石段にしだるる楓が本殿の玻璃戸に映る拍手(かしわで)打てば(西条市・亀井克礼:佐佐木幸綱選)
◇暁闇(あかつきやみ)
月のない夜明け前の暗い時間帯の意。
▼夜明け飛ぶ人口天体見るために霜降る暁闇東天仰ぐ(天理市・乾嘉宏:高野公彦選)
◇火襷(ひだすき)
藁などで縛って鎌に入れた陶器に茜色の筋様の模様がついたものだそうです。備前焼や常滑焼が有名きなどに多いとのこと。
▼侘助のその名その花いとしみし母なり形見の火襷(ひだ
すき)に挿す(福
岡市・宮原ますみ:高野公彦選)
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