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09/02/23 朝日俳壇、歌壇より
 朝日新聞の俳壇、歌壇から気になる句や歌を、先週分(16日)と今週分(23日)あわせて紹介します。

◆朝日俳壇
◇猫の乳かぞへて八つ日脚伸ぶ(岡山市・松田敏男:長谷川櫂選)
 しみじみと猫や犬の乳の数を数えたことはありません。そんなことが出来るのは歳を重ね、日脚の伸びた早春を生きる楽しみでしょうか?平凡で平和な日常を 詠んだ句もよ いものです。

◇心中に枯野を呼びて深く酔う(盛岡市・小野穣:大串章選)
 よく分かる、同じような句を作りたくなる句ですが、こんな風にうまくは作れません。
 男の心中には色々なものが棲んでいて、魔物の棲むには枯野がよく似合います。ましてや酒があれば。

◇藪椿百ほど咲いてなほ暗し(立川市・日置正樹:稲畑汀子選)
 子供の頃の印象では、椿の花は狭くて陽のあたらない路地に咲いていました。
 陽のあたらない場所に咲く椿の花はいくらたくさん咲いても「なほ暗し」です。

◇春を待つこころ一と雨待つこころ(相模原市・石田わたる:稲畑汀子選)
 一雨ごとに温かみ増すこの頃です。
 春を待つ心は雨を待つ心に同じ、なぜ春は待ち遠しいものなのでしょう。

◇出航が出撃の危ふさ冬の海(平塚市・秋濱信夫:金子兜太選)
 ソマリア沖の海賊退治に自衛隊が出動することが国会の審議も経ずに閣議決定で決められています。
 「出航」は「出撃」に他ならないと思いますが。

◇遊ぶこと知らぬ同士や日向ぼこ(長岡市・内山秀隆:大串章選)
 並んで日向ぼこする二人はどんな関係なのでしょうか?「遊ぶこと知らぬ」が効いてますね。
 読み手に色々と想像させる句は大好きです。

◇野焼きせし少年他郷へ移り住む(帯広市・吉森美信:長谷川櫂選)
 この句も色々とイメージの膨らむ句です。
 野焼きのころに少年は他郷に越して新しい人生を歩むのでしょうか。

◇今宵来る鬼へ一升寒造(佐倉市・山崎照三:長谷川櫂選)
 寒造の日本酒は旨い。
 できれば燗もせず冷やしもせず、常温の酒に菜っ葉のお浸しなどあれば鬼になってみたいものです。

◆朝日歌壇
◇束の間の雪の晴れ間に作業する我もからすも食わねばならん(石川県・吉川明彦:馬場あき子選)
 生きるために食う、食うために働く、こんな単純なことが大切なことです。
 そして働きが誰かのためになっていれば。

◇客の入り常に疎らな店舗にて閉店売出し賑わい続く(舞鶴市・吉富憲治:馬場あき子選)
 客は気ままなもの、見向きもしない店でも価格に吊られて押し寄せて一時の賑わいを作り出します。
 自作の句(川柳?)は<廃線と決まりて賑わうローカル線>です。

◇大寒の朝に逝きたる人ありて霊安室をあたためて待つ(八戸市・山村陽一:高野公彦選)
 霊安室を予め暖めて待つことができるのかどうか知りませんが、逝った人への想いが分かりやすい歌です。

◇別離とはあっけないもの音たてて扉が閉まり互いに追わず(熱海市・三澤房枝:永田和宏選)
 どんな風景なのでしょう?
 初めて読んだときには、火葬場の焼却炉の扉が閉まり・・・と思いましたが、電車の扉かと思ったり。。
 選者は「死者との別れと取っておく。あっけないまでに事務的な別れはいっそうの悲しみを呼ぶ」と評されています。

◇ふかくふかくもっとも深くお辞儀せよ死者との別れは無言にて風(高槻市・門田照子:永田和宏選)
 続いて死者との別れの歌。
 死者との別れは「深く深く最も深くお辞儀せよ」、礼を尽くしてお別れしなければなりません。
 「無言にて風」、こんな言葉を紡ぎだしたいものです。

◇仕事終え帰る夜空に月は冴え辞める潮時胸に秘めつつ(東京都・中塚教明:馬場あき子選)
 架空取引を繰り返し破綻した会社で、内部監査の強化を訴えたところ左遷させられた頃、単身赴任のアパートに帰る道々いつ辞めるかと自問したものです。
 詠み人は辞める潮時を既に決意しておられるようです。

◆若い人の歌
 朝日新聞の俳壇や歌壇を読んでいると、俳句は「老」の人たちが多く、短歌には「若」の人たちが目に付きます。
 俵万智さん風の歌によく出会います。

◇茹で立てのブロッコリーの柔らかさ春が確かに近づく予感(飯塚市・甲斐みどり:馬場あき子選)


◇お互いに大事な人と言いながら今日も飽きずにケンカをしている(広島市・富松義典:馬場あき子選)

 若いってよいですね。羨ましいことです。

◆難し い言葉
 浅学の身にはわからぬ言葉が毎週現れて、句や歌の理解ができないことが多々あります。
 恥ずかしいことです。

おみな
 <酒杜氏なべてをみなや寒造>(柏市・牛水里人:長谷川櫂選)
 「 おみな」とは女性のことだそうです。
 選者は「酒蔵の中の若い女の杜氏たち。香り立つような一句。」と評されています。
 こんな句もありました。
 <桜葉となるやをみなの衿白し>桂信子

◇寒紅(かんべに)
 <寒紅をさして相変わらず小言>(香川県・湯川雅:稲畑汀子選)
 <寒紅や夢中な時のとがる唇>(愛媛県・河野貴和子:金子兜太選)
 寒中に 作った紅で冬の季語だそうです。私は寒中に女性のする化粧(口紅)かと思っていました。

◇粥施行 (かゆせぎょう)
 <日変わらば路上の人ぞ粥施行>(野洲市・馬渕兼一:金子兜太選)
 室町時代 からある飢饉などの貧窮者へ粥を振舞った施しで、現代では「年越し派遣村」でしょう。
 何百年も経って未だに粥施行が必要とは進歩のない社会です。

◇蜷(に な)
 <新幹線には蜷の道のあり>(大牟田市・石橋武子:大串章選)
 蜷は春の季語で、巻貝の一種のようです。しかし句の意味がよく理解できません。
 評者の「時速何百キロという新幹線と、蜷の取り合わせが一句の眼目」との評を読んでも良くわかりません。

◇氷河(し が)
 <この朝零下九度の久慈川に生まれたる氷河(しが)のきらめきやまず>(鶴岡市・大沼二三枝:馬場あき子選)
 氷河は「ひょうが」と読んでしまいます。
 ネットで色々と調べてみましたが良くわからない言葉でした。
 凍った河との意味でしょうか?

◇壷中(こちゅう)の天
 <ほろほ ろとおさまる夫のほねしろし「壷中の天」と謂うをこのみし>(大分市・岩永知子:高野公彦選)
 「壷中の天」とは難しい言葉です。Webの大辞林では下記のように書かれ ていました。
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 後 漢の費長房が、市中に薬を売る老人が売り終わると壺の中に入るのを見て一緒に入れてもらったところ、りっぱな建物があり、美酒・佳肴(かこう)が並んでい たので、ともに飲んで出てきたという、「後漢書」方術伝の故事から》俗世間を離れた別世界。また、酒を飲んで俗世間を忘れる楽しみ。仙境。壺中の天。
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◇冬青(そよご)
 <雪降れば色鮮やかになる不思議山茶花の赤冬青(そよご)の赤き実>(市川市・栗坪和子:高野公彦選)
 冬青はモチノキの一種だそうで、冬に赤い実を付けるのだそうです。
 赤い実を付ける冬の青とは難しい命名です。

公田耕一さん
 16日の朝日新聞に、朝日歌壇の常連入選者であるホームレス・公田耕一さんに関する記事がありました。

 消印が横浜で横浜の地名も詠み込まれた歌もあり横浜在とは推測されるのですが、朝日新聞社にもどこの誰かはわからないそうです。
 「公田さん、何とか連絡がとれませんか。あなたが手にすべき入選一首につきはがき10枚の“投稿謝礼”も宙に浮いているのです。」と呼びかけています。
 「秀歌連発のホームレス歌人へ 『連絡とれませんか』」(朝日新聞 09/02/16)

 朝日歌壇の入選謝礼は僅か500円(はがき10枚分)とははじめて知りました。

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