Google
WWW を検索 残日録内 を検索
←Back  Haiku  Home Mail Archives Twitter  Next→

09/10/19 朝日俳壇、歌壇より

 元 ザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦さんが亡くなりました。
 同じ世代の男が一人、自死しました。何故か寂しい、何故か悲しい出来事でした。

 良いニュースも。
 佐野洋さんが作家生活50年と長らく評論「推理日記」を書いてこられたことなど実績が認められ菊池寛賞に選ばれたそうです。「菊池寛賞に佐野洋氏ら」(時事通信 09/10/19)
 おめでとうございます。


  19日付けの朝日新聞の俳壇、歌壇より気になった句や、歌を紹介します。

◆朝日俳壇
◇薬掘る老婆は村の影絵かな(松戸市・大谷昌弘:金子兜太選)
 「薬掘る」は秋の季語だそうです。薬草の採集のこと。
 土手に屈んで薬草を掘る女の姿が逆光で影絵のように見えたのでしょうか?滝平二郎さんの切り絵にありそうな風景です。

◇こんな日と知らずに着いて村祭り(東大阪市・渡辺美智子選)
 昔、霧ヶ峰辺りをハイキングの帰路に諏訪大社の御柱祭のための御柱を運ぶところに出くわしました。
 集落の軒先に筵を敷いて酒を酌み交わしている祭衆に呼び止められて茶碗酒を振舞われました。鯉の煮物が美味しかったことを覚えています。
 作者も祭見物ではなく、偶々訪れた町が祭の最中だった。ハレの日に出くわした場違いな「私」。

◆朝日歌壇
◇認知症病む足腰の強き母の世話を腰弱き父がみており(匝瑳市・椎名昭雄:馬場あき子選)
 今週も介護を詠んだ歌が何首か入選していました。
 介護する父は腰を病み、介護される母は足腰が丈夫と皮肉なことです。自宅での介護は、老々介護など介護する方も万全でないことが当たり前のこととなりつ つあるような悲しい国です。

◇透きとほる虫の音(ね)響(とよ)む仕舞ひ風呂介護の父の湯浴みの後に(八王子市・伊藤今朝男:馬場あき子選)
 この歌も父が母を介護しているのでしょうか?介護の父の後に仕舞い風呂に入る作者は透き通る虫の音が聞こえるのみ。

◇帰りたいと言はなくなりし老い母の前かがみなる白髪の背 中(三鷹市・増田テルヨ:永田和宏選)
 当初は見舞うたびに「帰りたい」と訴えていた母は、ここを終の棲家と諦めたのか惚けてしまったのか、どちらにしても悲しいことです。

◇三秒だけ待って下さい履けるのです飛んできて靴を履かせ ないで(加古川市・田中喜久子:高野公彦、永田和宏選)
 よくわかる歌です。
 ちょっと待てば本人ができることなのに、
介護する方はせっかちに本人にさせないでやってしまう。そうして少し残った「自 立」の芽を摘み取っているのです。「三秒だけ待って下さい」の叫びは重い。自戒。

◇放映の頻度がふえて気にかかるボディーのJALの赤いけさがき(千葉市・ 田口英三:永田和宏選)
 瀕死の航空会社・日本航空のロゴの赤い「J」を模したものを「赤い袈裟懸 け」とは言い得ています。
 この袈裟懸けの一刀で瀕死になったのでしょうか?国と経営者の問われなければならない責任を労働者に転嫁されないように監視したいものです。

 日本航空をモデルにした山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」が映画化され今週末から公開されます。
 原作を読んで感動したので映画は観ないことにします。

◇やはらかき心あること隠すごと背中丸める息子十七歳(じふしち)(つくば市・稲毛さおり:馬場あき子選)
 若い人の恋の歌かと思いました。お母さんの息子を詠った歌でした。
 甘酸っぱい青春を丸めた背中に秘めているのでしょうか?

◇原発に海は売らんと立ち上がる万葉の島神舞の島(下関市・宮川悦子)
 原発が安全だといい続けています。なぜでしょう?実は原発は安全ではない。原発が安全だというなら東京湾に作って見ればよい。
 詠われているのは山口県祝島の対岸に中国電力が計画している上関原子力発電所のことのようです。
 海も魂も売ってしまえば取り返すことができません。

◇「第二の人生(セカンドライフ)」の言葉もちいて穏やかにリストラ告げたり総務課長は(福岡市・人捨無:佐佐木幸綱、高野公彦選)
 首を斬らねばならぬ総務課長氏の苦悩も分からないではないですが、セカンドライフなどと訳の分からぬ言葉を使ってはなりません。外国語を使っての説得に は要注意です。
 今の日本に明るい第二の人生なんかありません。一旦辞めれば就職先はなく、年金の額は値切られ支給時期を延ばし、行き難いことこの上ない。犯罪者、自殺 者が増えて当たり前。

◇その村のもっとも高きに葬られ恋さえ知らず兵士逝けり(高槻市・門田照子:永田和宏選)
 きっと立派な墓なのでしょう。墓標には桜か星が彫られ、見知らぬ南方の地名と二十数歳と享年が刻まれていることでしょう。
 残ったものはせめてもの供養にと立派な墓を生家を見下ろす高台に建てたのでしょう。

◆俳人・鈴木しづ子
 俳壇、歌壇ページ下のコラムに鈴木しづ子さんのことが書かれていました。
 最近、句集「夏みかん酢つぱしいまさら純潔など」や「鈴木しづ子 (KAWADE道の手帖)」などが出版された鈴木しづ子さんは、1952(昭和27)年以降は消 息を絶たれているそうです。1919(大正8)年生まれだそうですから存命なら90歳です。
 結婚、離婚、アメリカ兵との同棲など、荒廃した敗戦後の時代を俳句を支えに生きてこられた方のようです。

 現代俳句協会のWebサイトで ヒットした句の一部を紹介します。

◇コスモスなどやさしく吹けど死ねないよ

◇夏みかん酸つぱしいまさら純潔など

◇長き夜や掌もてさすりしうすき胸

◇夫ならぬひとによりそふ青嵐

 馬齢を重ねても、知らぬこと多く知りたいこと多い毎日です。

inserted by FC2 system