09/11/02
朝日俳壇、歌壇より
2日付けの朝日新
聞の俳壇、歌壇より気になった句や歌を紹介します。
◆朝日俳壇
◇台風に田を見廻りし父思ふ(町田市・枝澤聖文:大串章選)
私の幼いころ、母が耕作をするいわゆる三反百姓でした。小規模なものですがよく決壊、氾濫する川があり台風の時には母が見回りに行っていました。
台風の時期に、見回りに出た農家の人が亡くなったとのニュースを聴くと母の姿を思い出します。
◇ポンプ井戸押せば水出る一葉忌(相模原市・田中仁:稲畑汀子選)
「ポンプ井戸」は手押しポンプのことだろうと思います。
選者は「ポンプを押せば水が出る古井戸。樋口一葉の世界を身近に感じた詩心である」と評されています。「ポンプを押す」に違和感を感じました。手押しポ
ンプは「ハンドル」を押して水が出すものです。
◇しあわせな人の見つけし返り花(八代市・吉田彩:長谷川櫂選)
選者は「『しあはせな人』に幼子のような人を想像した。だからこそ、見つけられた返り花」と評されています。評を読んで選者の感性に感心しました。そう
いう読み方もあるのですね。
◇渋滞し秋夕焼に遭遇す(流山市・瀬下猛男:長谷川櫂選)
渋滞のために所定の時刻に遅れたためにみることができた幸運。サイクリングの途中、雨に降られたために虹が見られたとかそ
ういう幸運にたまに出くわすこともありますが、幸運を見逃したことを中々知り得ないことは幸せなことだと思います。
感度を研いでおくことにしましょう。
◆朝日歌壇
◇芽をだせば更地だつたといふやうに水道栓がぽつんと立てり(福岡市・中島行夫:高野公彦、永田和宏選)
空き地に水道管が立ち上がり頼りなげに付いている蛇口を見ることが見ることがあります。そんな風景を植物の芽と見るのは凄いと思います。私の感性ではと
ても想像できません。
◇百日の赤子に意志の備わりて抱き方下手と泣いて知らせる(小樽市・吉田理恵:高野公彦選)
愚図られた子守は自分の抱き方が悪いと泣かれているように感じてしまいます。生後100
日の赤ん坊にも、抱き方の良し悪しが分かるのでしょうね。
詠み人は赤子の母親でしょうか?祖母でしょうか?私は孫を抱く祖母のように思いました。
◇指示の無き日々は辛かり出しゃばらず卑屈にならず再雇用われ(町田市・冨山俊明:永田和宏選)
よく分かります。
働く場所があるだけマシと言ってしまえばそれまでですが、長く働きそれなりの見識を蓄えてきた人間を再雇用先では一つの部品のように扱われます。自分の
意思を出さず唯々諾
々とただ従うだけの悲しさ。
中高年のキャリアを生かした働かせ方は無いのでしょうか?
◇日の暮れてビールの空瓶拾いゆく家なき人らの統一記念日(ドイツ・西田リーバウ望東子:馬場あき子選)
どこの国も同じですね。格差の拡大は世界的な現象のようです。
選者は「ドイツの統一記念日の歌は、祝い酒のあと路上に転がる空き瓶を拾う人。一本八セントになるという」と説明されています。今年の暮れには年越し派
遣村などができなくてすむのでしょうか?
◇道問われ得意顔して饂飩屋の在り処教える我は讃岐っ子(高松市・木内邦治:佐佐木幸綱選)
高速道路の通行料金が割引になってから、讃岐うどんを食べに行っていません。香川県のうどん屋もずいぶんすれてしまったことでしょう。
私の行きたい店はほとんど迷路の中のようで、歌のように地元の人に道を聞くと待っていたかのように右、左と教えてもらいます。
◆難解句
金子兜太さんの選はいつも難しい句が選ばれており中々理解できません。今週も難解(私にとって)な句ばかりでした。
ちなみに、評が付いていた入選句を紹介します。
◇雁行(がんこう)や黄色い車もえている(神戸市・豊原清明)
一席の句。評「『黄色』に秋の色合いを覚えつつ、今の現実への言いしれぬ虚無を受け取
る」
◇栗渋を夜つぴて剥くは父なりし(盛岡市・松田昭雄)
二席の句。評「営々と働く農の父を見つめて」
◇薄より吾が母軽く命かな(三郷市・岡崎正宏)
三席の句。評「『薄』の喩えに血肉の通いあり」
◇コスモスのごとく都に異人たち(大阪市・坂本守)
四席の句。評「この句の『コスモス』の喩えも旨い。軽妙で、『都に異人』という戯(ふざ)けた言い方ともよく合う」
◇がらんどうの頭に蓑虫ぶら下がり(市川市・井上三七)
十席の句。評「個性的な美趣を味わう句」
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