10/07/09 向田邦子「無名仮名人名簿」<2>
政権が変わろうと
も、指導者が平和主義者を装っても、政治が誰のために行われているかとの構造が変わらない限り国民の苦しみは続きます。
ソフトウエア販売会社アシストの社長ビル・トッテンさんのコラム(「軍需産業に操られる」Our World
10/07/07)に、失業が増大し財政赤字が拡大しているアメリ
カの軍事費が前年比約8%増の6610億ドルに上っている、それはオバマ大統領が軍需産業のための政治を行っているからだ
と書かれています。
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失業や財政赤字が拡大する中、オバマ大統領がブッシュ時代
より多くの軍事費を支出し続けるのは、日本の首相がアメリカに操られているよう
に、オバマが軍需産業に操られているからである。第二次世界大戦が終わったあとも世界中で戦争を続けているアメリカは、こうして戦争の理由を作り続け兵器
会社を潤していくのである。
------------------(引用)
憲法で軍隊を持たない、戦争はしないと決めた日本の軍事費も約5兆円も支出しています。世界6位だそうです。
選挙でしか弱者の意思は示すことはできません。是非、投票に行きましょう。
向田邦子さんの「無名仮名人名簿」の2回目の紹介をします。
向田さんの文章は平易で、気取らないものです。こんどは「父
の詫び状」などの長編小説を読んで見たくなりました。
◆パセリ
サンドイッチやコロッケの横についているパセリを食べようとすると「やめなさい、使い回しされているもので汚いから」という人がいます。野菜不足の私は
しっかり食べますが向田さんも気にされない方のようです。
パセリを口にしないような人は着るものにも持ち物にも拘っている。反対に細かいことに無頓着な人がいる。こういう人はお洒落でないことが多い、紺の背広
にセイコーの時計に百円ライターである。
4、5人の男性とあるバーで飲んだときのこと、うしろの席に酒癖の悪い客がいて何が気に入らなかったのか向田さんたちにビールをあびせかけ
てきた。
パセリに口をつけるなという人は、顔をひきつらせて中腰に、紺の背広氏は頭から雫をポタポタ垂らしながら夕立の中を歩いている風に顔色も変えず世間話を
していた。
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自分にもそういう癖(へき)があるから余計そう思うのか
も知れないが、隅っこが気になる人間は、知らず知らずに隅っこの方へ寄っていく。ちょっと見には無頓着に見えるようだが、小さいものを見ずに大きいものを
見ている人は、気がつくと真中にいることが多いのではないか。
鮪に生れた人は、ぼんやりしていても鮪なのだ。腐ってもステーキなのである。
刺身のツマやパセリに生れついた人間は、凝れば凝るほどお皿の隅っこで、なくては物足りないが、それだけではおなかもふさがらずお金も取れない存在とし
て、不平を言い言い、しおれてゆくのだろう。
------------------(引用)
◆メロン
メロンは高級果物だという刷り込みがあります。
近所の八百屋で、3500円という値段に高いなあと思いながら手にとって見ているうちに熟したメロンのお尻に親指がめり込んだ。目ざとく見つけた若主人
に「キズものだから千円でいいよ」といわれ、来客に出すと食べごろで美味しかったそうです。
次に出かけたときも、ついメロンに手を出したところに「奥さん、今日は親指は駄目よ」と若主人の声がかかった。
一人で一個、いや半分でもと思っても果物に3000円も4000円も使うことはなかなかできないそうです。
入院をされたとき病室には花とメロンが溢れ何個でも食べられたそうですが。
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メロンは、病室で、パジャマ姿で食べても少しもおいしくないのである。高
い値段を気にしながら六分の一ほどを、劣等感と虚栄心と闘いながら食べるところに、この果物の本当の味があるらしい。
------------------(引用)
◆胸毛
映画雑誌の編集の仕事をされていたころ、映画評論家や俳優を招いて座談会をされるときに速記者を依頼する。滝口さんといい32、3歳で痩せていて小柄で
目も鼻も口も声も小さい人だった。
座談会が終わると速記者にもお膳がでるが滝口さんは「胃が悪いので」と手をつけない。腕のよい人だから滝口さんの都合を聞いてから座談会の日取りが決ま
ることもあったが、部屋の隅に座り無口で気がつくといなくなっている人をみんなは軽く見ているところがあった。
あるとき、急に座談会の時間がズレて向田さんと滝口さんは喫茶店で時間をつぶされた。
その喫茶店で滝口さんがカメラ雑誌の常連入選者であり、何百鉢という蘭を育てその方面ではプロであること、三人の子持ちでヴァイオリンを弾くことを始め
て知った。その上薄い胸には剛毛が生えていることも。
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ほんとうにこわいのはこういう人だなとおもう。大騒ぎをする人間はたいし
たことないのである。
------------------(引用)
◆おばさん
向田さんが勤め人だったころ、勤め先のビルの前の街路樹の下で靴磨きのおばさんが商いをしていた。突っけんどんだが仕事が丁寧だと評判で繁盛していた。
おばさんの顔は男顔で、眉と眉がつながり、口のまわりにはうっすらと口ひげがあり、笑うと金歯がひかり、靴クリームのしみ込んだ甲虫の背中のような手を
していたが、美容院でセットした髪が大事そうにスカーフで覆われていた。
おばさんは向田さんの勤め先のビルでトイレ(向田さんは「ご不浄」と書かれています)を借りたり水を汲ませてもらったいたが、このビルの管理人は依怙地
な人でおばさんといつも諍いをしていた。
ある日、浅草に出たついでに観音様にお参りをしようと仲見世を歩いたとき、でおばさんと管理人のおじさんが二人連れでいるところを目撃してしまう。
おじさんの背広の裾を黒のレースの手袋をはめたおばさんの手が子どものようにしっかりと
握っていた。小男のおじさんとふた廻りも大きいおばさんが浅草寺の方にゆっくり歩いてゆく、向田さんは仲見世の半ばで手を合わせて帰られたそうです。
映画の一こまですね。
その後も、管理人のおじさんは依怙地で、二人は間は相変わらず悪っかたそうです。
◆道を聞く
若いときには自慢でもあったことが年を重ねるとできなく
なってきます。若いときは地図を一瞥しただけですんなりと目的地につけたものですが、最近は道に迷うことが多くなりました。
地下鉄を降りて地上に上がる出口を正反対に出て、しばらく歩いて間違ったことに気がつくというような体たらくです。
向田さんは明治神宮の表参道の近くに住んでおられるとのこと、ある年のお正月お昼過ぎに年賀状を出しに表へ出たとき老夫婦に明治神宮への道を尋ねられ
た。八王子から初詣に来たのだが地下鉄の降車駅を間違えたらしい。
道端にしゃがみ込んで何度も詳しく道を教えられたそうです。「おわかりですか?」「わかった」ということで立ち上がってゆきかけると老夫婦も立ち止まっ
ている。もう一度近寄ると「よくわからないので一緒にお参りしてくれないか、ご飯はご馳走しますから」と食事つきの道案内を頼まれたそうです。
道に迷えばウロウロせずに地元の人に尋ねるのが一番です。
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