11/06/02 井上ひさし「東慶寺花だより」
茶番が終わりまし
た。
野党党首会談で谷垣自民党総裁は、不信任成立後の政権構想は「確固たる展望をもっているわけではない」などと発言したことから、共産党は自民、公明、た
ちあがれが提出する不信任案に棄権の立場をとったらしいが、理にかなったことだと思います。
今朝のワイドショーに京大の小出さんがビデオ出演されていました。インタビュアーの「推進派の学者には潤沢な研究費の他に余禄があるようだが?」との問
いに「そんなことは生きるということと関係ないこと」と答えておられます。37年間助教(助手)でいたことについて「自分の嫌なことはしない」「最
下層の教員であったために誰にも命令することなく自分のしたいことだけをして来られて幸せな立場だった」などとも。「小出裕章 (京大助教)
非公式まとめ」に動画が載せられています。
また、小出さんの新刊「原発のウソ」も紹介されていました。
井上ひさしさんの
「東慶寺花だより」を紹介します。
この本は「オール讀物」に1998(平成10)年から2008(平成20)年の間に15回にわたって掲載されたものが著者の死後に単行本として発刊され
たものです。
舞台は鎌倉、東慶寺の門前で離縁を求めて駆け込む女たちの世話をする御用宿・柏屋、登場人物は江戸蔵前の町医者西沢佳庵の弟子で柏屋に居候しながら滑稽
本の作者である信次郎、柏屋の主人源兵衛夫婦、一人娘のお美代、番頭の利平夫婦らと一話ごとに登場する駆け込み志願の女たちです。
江戸時代には女性から離縁を切り出せなかったために、夫との離縁を望む女性は東慶寺などに駆け込み2年の間、修行をすれば晴れて離縁が成立するという制
度があったようです。
そんな男と女の揉め事を寺に入るまでに調停をする役目を預かっているのが御用宿です。駆け込み志願の女がでると相手の男や関係者を呼び出して寺役所の役
人と一緒に双方の話を聞き解決を図っていきます。
駆け込む時に30両を収めれば仏様に花を供えるなど楽な仕事、15両収めれば室内の掃除、尼の身の回りの世話とこれも楽な仕事、15両に満たないと炊
事、洗濯、畑仕事、その他雑用をしなければならないと書かれていましたから、誰でも彼でもと言うわけにはいきませんが現在の家庭裁判所のような制度があっ
たとは驚きでした。
医者の見習いながら柏屋の中番頭見習い、家裁の調停人をしながら作家を目指している信次郎は釜石時代の井上ひさしさんの姿でしょうか?
各章が「梅の章 おせん」などと季節の花の名前と駆け込む女の名前がつけられていておしゃれです。
「岩莨の章 おみつ」では、朝早く散歩に出た信次郎は東慶寺の門前で男に抱きすくめられながら「簪(かんざし)を御門の中へ投げ込んでくれ」と叫ぶ女と
出くわした。
一瞬迷った信次郎は「こんな時、主人や番頭ならどうするだろう?」と思いますが、門の前に落ちていた簪を門の中に投げ入れた。チャリンとした音を合図に
門が開き門番が「駆け込み、成就」と女に告げて駆け込みが成立しました。
駆け込んだのは浅草瓦町の油屋の売り子今朝治の女房おみつです。おみつは柏屋に、揉め事を避けるために今朝治は別の御用宿松本屋に分かれて預けられま
す。
信次郎らの調べに覚えた台詞のように答えるおみつ、干物売りの行商の女、江戸から来たやくざ者と賑やかな人たちが登場します。駆け込むのは亭主と別れた
い女房だけではないようです。
信次郎を「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と慕う柏屋の一人娘お美代、主人夫婦と江戸の叔母は信次郎と夫婦になって欲しいと思っています。そんな話に取り合わ
なかった信次郎でしたが、一話ごとにまんざらでもないような雰囲気になっていきますが、最終章で西沢佳庵に従って長崎遊学について行きそうな話になってい
ました。二人は果たして結ばれるのかとそんな興味も残りました。
この「東慶寺花だより」が400ページ、先日勝って未だ手付かずの「黄金の騎士団」が600ページと分厚い本が続きます。 |
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