11/06/07 朝日俳壇、歌壇より
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月6日付けの朝日
新聞の俳壇、歌壇より気になった句や歌を紹介します。
◆朝日俳壇
◇山越ゆるたびに色濃き桐の花(熊本市・永野由美子:稲畑汀子選)
山に咲く桐の花や藤の色は様々です。その色の違いを山超えるたびに濃くなると感じる感性は私にはありません。
◇田植機の上は次男の日曜日(津市・西をさむ:金子兜太選)
私の駄句に「田植機の運転席に嫁ひとり」とサラリーマンの夫を持つ農家の嫁が一人で田植をしている「三ちゃん」農家を歌ったことがあります。「運転席」
よりこの句のように「上」の方がはるかによいですね。
それにしても、次男が田植をするとはどのような事情があるのでしょうね。色々と想像を膨らませることができます。
◇諳んずる金芝河(キムジハ)の詩や青嵐(山形県白鷹町・新野裕子:長谷川櫂選)
韓国の抵抗詩人キム・ジハの「五賊」などの詩を諳んじることはできませんが、若いときによく読みました。作者も私と同年代でしょうか?懐かしい詩人の名
を思い出しました。
選者は「金芝河は団塊の世代に一時もてはやされた韓国の詩人」とそっけないですが、青春の思い出でもあります。
◇緑陰に喫煙男子林立す(川崎市・神村謙二:大串章選)
「キツエン ダンシ リンリツス」とリズムの良い句です。喫煙所が木陰にあるとは幸せなこと、良く見かけるのはビルの裏口、駐車場の片隅、荷物の搬入口
などで肩身を狭く紫煙を燻らしている男女の姿です。
◇明るさを失わぬ老い更衣(今治市・谷口國人:大串章選)
そのまま読んでいいのでしょうか?
きっと若々しい方なのでしょう。羨ましいこと。
◆朝日歌壇
◇「しばらくはぼんやりしてればいい」と言ふ友の言葉がありがたかった(仙台市・武藤敏子:永田和宏選)
病気や災害でめげている人に「頑張れ」というのは容易いことです。黙って寄り添うことの方が大事だと思います。
この歌の友人のように言ってくれる人は本当の友だちではないかと、友だちのいない私が言うのもなんですが。
◇動かない時計と動き出す時計東北にいま初夏はめぐりて(茨木市・瀬川幸子:永田和宏、馬場あき子選)
この歌の「時計」が象徴するものはなんでしょう?復興でしょうか?人々の心でしょうか?色々なことを考えさせられる歌でした。
2011年3月11日14時46分から、動かないもの、動き出したものをゆっくり考えて見るのも意義あることではないでしょうか。
◇麦埃吾が背妻の背払ひ合ひ二人して黙して灯に帰りゆく(志摩市・廣鶴雄:永田和宏選)
夫婦二人での労働、二人して互いを労わり家路につく、こんな歌をたくさん読みたいと思います。「灯に帰りゆく」とは家には既に誰かが帰って灯を点してい
るのでしょうか?
さて、麦埃とは何でしょう?
子どものころに手伝った麦の刈り入れ、天日干し、脱穀などどの作業でも嫌だったのはビールのラベルなどに描かれた麦の穂の先にあるヒゲが首筋から入り痛
痒かったことを思い出します。
◇生ゴミを埋めた土からジャガイモが草に負けじと葉を出し伸びる(西海市・前田一揆:馬場あき子選)
余りものの種芋をいただき、ベランダの狭いプランターに植えておいたら小さいながらもジャガイモが採れました。
ジャガイモの生命力には驚きです。この歌もジャガイモの生命力を詠んだもの、世の中の生きとし生けるものの命に乾杯!命を大切にしないものに鉄槌を!
◇原発の大事故千年に一度のみと。三十二年に三度起こりし(名古屋市・諏訪兼位:佐佐木幸綱、高野公彦選)
スリーマイル島での原発事故は1979年3月28日、モ
スクワの赤の広場に立てても安全だといわれた当時最新式のチェルノブイリの原発事故が1986年4月26日、そして福島が2011年3月11日、32年間
に3度も起こっています。当然といえば当然のこと。
人は過ちを起こすもの、機械は故障するものという当たり
前の前提に立たなければならないものを「安全だ」「安全だ」と言い続けてきた人たち、それで金儲けや地位を得ていた人たち、その人たちが今でも「放射能は
体に悪くない」などと害毒を垂れ流しています。そんな輩を未だに使っているメディアも許せない。
◇土下座などされても還らぬ日常と知れども怒りのやり場のなくて(福島市・斎藤栄子:佐佐木幸綱選)
東電の社長が避難所で土下座をしている写真がメディアで報じられていましたが、後ろからみると一段下がったところに座布団を敷いて土下座していました。
普通の日常が大切なことと感じるこの頃です。
◇若者は傘持ちながら濡れて行く傘はあるよとぶらぶらさせて(長野市・関龍夫:佐佐木幸綱選)
私も余り傘をささない方です。ある時そぼ降る雨の中を歩いていると家の中から「傘をどうぞ」と言われたことがあります。
人様に気を使わせないためには傘を持ちながら濡れているのがいいのですね。
◇原発に群がる蟻と逃げる蟻、蒼天にただ白き日輪(福島市・美原凍子:高野公彦選)
美原凍子さんの歌。
こんどの原発事故でも一攫千金を企む大小様々な輩が蠢いていることでしょう。翻って逃げる人々には何の力もない、天災でも人災でも本当の犠牲者は社会の
底にいる私たち。
「蒼天に白き日輪」がしまります。
◇甲子園の子等の如くに故里の土を抱きて長旅にでる(釜石市・川村敬昌:高野公彦選)
福島の人にとっての「長旅」はもう帰ることのできない旅になるのでしょう。「故郷を返せ」と叫びたいですね。 |
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