阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」と巨人の「闘魂こめて」は、ともに古関裕而(ゆうじ)が作曲した。高校野球の「栄冠は君に輝く」で知られる古関は、
早稲田の「紺碧(こんぺき)の空」、慶応の「我ぞ覇者」の作者でもある▼作詞家阿久悠さんの本紙連載にあった話だ。阿久さん自身、複数の球団歌を手がけ
た。節操がない、などと言うなかれ、プロの仕事とはそういうものである。芸術家なら己の「美学」の許す限りでだが、顧客の注文に合わせる器と技が要る▼一
方で、八方美人では務まらない職業もある。政治家だ。柔軟と変節、太っ腹と無定見の間には濃い一線を引かねばならない。橋下徹大阪市長にすり寄る民主党、
自民党の面々には淡い線もないらしい▼両党は市長選で橋下氏を攻撃した。衆院選での報いを恐れたにしても、「独裁ごめん節」と「橋下万歳音頭」を続けて歌
える神経は信じがたい。同じ握手でも、幾らか恥ずかしそうにできないものか。「政党の馬鹿が手玉に取られてる」(石原都知事)との評にうなずく▼鈴木宗男
氏の「出所祝い」でも、政治家の変わり身を見た。親交の深い議員にまじり、かつて国会や街頭で鈴木氏を罵倒した顔がある。氏は意に介さない風だったが、こ
ちらが赤面した▼そんなものさと諦めるなかれ。国の危機にこそ、政治家の節操が厳に問われるべきだろう。ぶれないのは誰か、自分たちの選挙より、顧客であ
る有権者のことを考える本物のプロは誰かを覚えておきたい。党名と氏名の両方で。(12
月26日朝日新聞) |