12/01/26 朝日俳壇、歌壇より
飲酒をすると眠気に負けて布団
の中に潜り込んでしまいます。
なんと怠惰な生活だろうと我ながら呆れることです。
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日付けの朝日新聞の俳壇、歌壇より気になる句や歌を紹介します。
◆朝日俳壇
◇狸汁食べて戻り路迷はされ(坂出市・緒方こずえ:稲畑汀子選)
狸汁というと、おじいさんに捕まった狸は、おばあさんを殺し狸汁と偽っておばあさんの死体で作った汁をおじいさんに食わせるお伽話の「カチカチ山」を思
い出します。人間にとっては残酷な話に聞こえますが、いつも狸汁にして食われている狸の側から考えてみればまた違うのでしょう。
ところで、小さい頃はあちこちに森や林があり、狸や狐に騙されて家に帰れなかったとかの話をよく聞かされました。
◇焼芋の人待ち顔に並びをり(平塚市・日下光代:長谷川櫂選)
人(客)待ちの焼芋とはどんな顔でしょう?
選者は「焼芋の顔とはおもしろい。それも人待ち顔とは。鯛焼のほうがとも思ったが、やはり焼芋がいい」と評されています。私も焼芋に一票。
◇初孫の春着に乳の匂ひけり(飯塚市・梶原健伯:長谷川櫂選)
嬰児の匂いは乳の匂い、孫ならなお可愛いのでしょう。
懐かしい匂いです。
◇夢の無き初夢を見てしまひけり(東かがわ市・桑島正樹:長谷川櫂選)
夢(希望)のない初夢は、作者だけでなく多くの国民の初夢だったのではないでしょうか?
最近、YouTubeで聞いた米朝さんの「天狗裁き」を思い出しました。長屋に住む男は悋気持ちの女房からニヤニヤとした寝顔から「どんな夢を見ていた
のか?」と問われ、「夢なんか見ていない」と答えるのですが「私に言えないような夢だったのだろう」と夫婦喧嘩になります。そこに隣家の男が仲裁にはい
り、、町役に奉行まで出てくる騒ぎに発展していきます。
◇描かれぬままに林檎の置かれあり(茨木市・瀬戸順治:大串章選)
私は絵も描けませんが、静物画の題材にテーブルの上に置かれた林檎がよく使われます。
この林檎は描かれずに置かれているという。ごく普通の林檎である。ごく普通の。
◆朝日歌壇
◇終バスで帰ってしまうただいまと先ほど帰ってきた弟は(さいたま市・
五十部麻:永田和宏選)
一読、再読では意味がわかりませんでした。繰り返し読んでいると弟を思う姉の心が良く分かってきました。
◇地下鉄の改札越しにプレゼント届けてくれる母さんサンタ(大阪市・永田真智佳:佐佐木幸綱選)
駅の改札の柵越しに書類などの物を受け渡しすることは珍しくありませんが、この歌は母がクリスマスプレゼントを改札口に届けてくれたとのこと。どんな状
況なのでしょうか?ゆっくりどちらかの家に寄っていけない理由は何なんだろうかなどと想像が膨らみます。
◇草の実のびっしり刺さりし防護服に玄関開くる一時帰宅は(郡山市・渡辺良子:佐佐木幸綱選
◇あの日から初めて入る家の中曲がりし時計の二時四十六分(郡山市・渡辺良子:高野公彦選)
郡山に避難されている渡辺良子さんの二首の歌、作品の注に「11月11日、富岡町に初めての帰宅」とあるそうです。故郷を奪われた悲しみが静かに深い。
詠まれているように東日本大震災は3月11日午後2時46分に発生していますが、家庭用掛け時計は乾電池を動力としていて、ネジ巻式の振り子時計でもな
い限り地震の発生時刻を指して時計が止まるとは思えません。
淡路島にある野島断層保存館でも地震の被害に遭った民家が展示されていますが、そこに掛けられた掛時計も地震発生の5時46分を指していました。この時
計には作為を感じました。
◇モロビトノコゾリテクルシミテイマスフクシマニフルユキハハイイロ(福島市・美原凍子:高野公彦選)
「諸人の挙りて苦しみています。福島に降る雪は灰色」、作者の心象に降る雪は「灰色」なのでしょう。
灰色の雪から井伏鱒二の被爆者の苦しみを描いた「黒い雨」を思い出さずにはおられません。放射能をたっぷりと含んだキノコ雲は上空で冷やされ黒い雨と
なって、二次被爆を広げました。黒い雨に打たれた主人公の一家はヒバクシャとして差別されるのでした。
フクシマでもヒバクシャが差別されるのでしょう。ヒロシマ、ナガサキのヒバクシャの加害者はアメリカ、フクシマのヒバクシャの加害者は東京電力です。
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