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03/01/15 Mさんへのメール
 営業経験もなく、営業成績も上がらず、周りの私達を見ていて自分にはこんな仕 事は向いていない、こんな職場にはいたくないと思い出したMさんは会社を辞めて、奥さんと福祉関係の仕事をしたいと言い出しました。
 余り性急に答えを出さないようにと書いたメールです。

M 様

 寒い夜ですね。昼前から悪寒がしてまた風邪を引いてしまったようです。
 こんな夜は静かに酒でも飲んで寝るに限るのですが、中々寝つけそうもありませんので、昼に聞いたあなたの身の振り方等についてグダグダと書いてみます。
 私は真っ直ぐ伸びている樹だと思っていたのですが、最近の社内の状況から「どうも真っ直ぐでなく捻じ曲がっているのではないか」と思うことがあります。
 正しいと思っていても、間違った大勢に「間違っている」と言われれば、こっちが間違っているのかと錯覚するような状態です。

 会社での私の立場からは、このような発言は不用意、不見識なのかもしれませんが、あなたのように若くて前途もあり、また家族の生活を守らなければならな い人にとって、この会社にいる必要も必然も全くありません。
 新しい組織になり、私の支配下でなくなった今、私のカバーできる範囲でありませんので、尚更そのように思います。

 この会社が必要としているのは、汚れた金であっても「金を咥えてくる人」だけです。それも「今」です。数年後に大きな実を結ぶような助走や種まきは評価 されません。
 本当の商売ができる人を育てることなど眼中に無いのです。
 毎年毎年、自転車操業をしていることに意味があるとはとても思えません。

 また、この会社を必要としている人は、詐欺師やブローカーのように犯罪として表面化しない範囲で、汚い金を集金する能力があり、その汚い金の一部で飲ん だり食ったり遊んだりすることに何の傷みも感じ無い人でしょう。

 何時も言っているように、私達がこの腐ったような会社にいる意味は、この時期にやらねばならないこと、次のステップに飛躍するための準備をすることにの み意味があります。
 在職中に、少ないとは言え保証された賃金と休暇等を有効に利用して60%程度の準備をされてから、意志表示をされることが良いのでは無いでしょうか。

 奥さんのお考えや構想は、さすがだと感服します。
 社会福祉の現場におられて、この国の福祉政策の貧困さや社会の構造の欠陥について、嘆き憂いているだけでなく、自分達が立ちあがらなければならないとの 結論を導き出されたとの由、社会の歪みはこうして人を鍛えて行くのですね。

 あなたは、ある程度の準備(ハード&ソフト)を整えてからとの考えを持っておられるようですが、良きことを始めるには、全てが吉日と歩を進められること も必要かと思います。
 6割程度の準備を整えられて、船出されるのが佳かと思います。(構想を暖めすぎると腐乱するかもしれませんよ)
 人が世の中に生かされているのは、あなた達の構想のように社会と係わり社会に還元していくことですね。

 あなたの母上が、「良いことをしていて生活できない訳が無い」とおっしゃっていたとか聞きましたが、私も全く同感です。「まじめに汗を流して働いてい て、食えないのなら、それは社会がおかしい」と思います。
 お二人して、立派なことを始められるのですから、多少の困難は乗り越えられていけるものと思います。
 まあ、なんと羨ましいことでしょう。(若さとその情熱に)

 年寄りの話はくどいものです。毎度同じような話ですが、私のことを少し。。。
 今回の人事や組織の変更は、HさんとNさんと私(特に私)をターゲットにした、苛めに近いものだと感じております。
 自分の口で、キチンと説明できない人達は、言葉の代わりに態度(人事異動等)でその意志を伝えているのだろうと推察します。その意志とは、「会社はあな たをもう必要としていませんから、自らの意志で退職してください」でしょう。

 私は、4月に着任して経営幹部の意を受けて、Kさん、Sさん、FさんそしてHさんを退職に追い込んできました。だから、彼らの手法は良く分かっていま す。
 で、私は「辞めてやる!」と啖呵の一つも切って辞めるのか、開き直って自分にとって働き甲斐のある経営陣になるまで頑張るのか二つに一つの道しかありま せん。

 山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」という小説のモデルであった、小倉寛太郎さんはヒョンなことから日本航空の労働組合の委員長になられ、「御用組合」同然 だった当時の労働組合を労働者のために変革しようと奮闘されるのですが、このことが労働貴族と会社から疎まれ、中東からアフリカまでたらい廻しの人事で、 最後は自社便の無いナイロビの事務所開設準備という建前で十数年も海外勤務を強いられました。

 この小倉さん(小説では恩地さん)が、「このような差別を受けて会社を辞めることは容易いが、丸ノ内の本社ビルの役員フロア−で喜ぶ奴がいたり、羽田の 整備場等で落胆する人達がいる限り、俺は辞めない」と言われいたことを自分の身において反芻しています。(彼の立場に比べれば私など甘いものですが)

 ただ、そのように居座った場合に掛けてこられるであろう色々の差別に自分がいつまで毅然としていられるかの自信がありません。
 意気がって、正義は自分にありと言っても、未だ「歯をむいた」訳でも無いのに、この仕打ちですから正面切って「牙」をむけば、陰湿な攻撃が続けられるこ とが予想されます。
 小倉さんは、分裂さされたとは言え労働組合と言う組織がありましたが、私の場合は何もありません。正に徒手空拳で戦わねばなりません。
 誰かが、私に同調するような態度を取ればその社員も私と同様にされることでしょう。

 そんなことを考えると、負け犬のように尻尾を巻くしかないのだろうとかと思います。
 Hさんも厳しい状況ですが、3月末には答えを出されるでしょうから、現実的には私も同様の時期に決断せざるを得ないと思っております。

 先日、55歳になりました。前の会社では管理職55歳定年が不文律のようにありまして、私の同期はこの春で殆ど退職して行きます。私は、2年半の回り道 をして彼らと同じスタートラインに立つのです。
 生まれて55年、働いて三十数年、色々な人にお世話になって来ました。また、個々の人だけでなくこの社会が私を育ててくれました。

 「恩」をいただいた人に「返す」のではなく、次の世代に恩を「送って」行かねばと痛切に感じております。
 「何をして、恩を送るのか」が、今一番考えているところです。
 私には、人と比べて突出した能力がありません。特殊な技能もありません。
 時間は、たっぷりでもありませんが未だ未だあります。じっくりと今後のことを考えたいと思っております。
 あなた達が、事を始められる時期に遊んでいるようなら是非ボランティアとして手伝わせてください。子供の相手は疲れますが結構向いているのではないかと 思ったりもしております。

 是非、お二人で十分議論されて、輝かしい事業に取り組まれることを期待しております。
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