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05/10/04 佐野 洋「『小の虫』の怒り」@

 ベストセラーと言わ れる本を読むことは殆どありませんので、私の本の選び方はほぼ決まった書店の書架を覗いて選ぶか、先に読んだ本、観た映画などのつながりで選ぶかをしてお ります。

 今回ご紹介する本は、ふらりと入った馴染みのない書店の書架に、93年初版の初版本が少々背表紙を日焼けして鎮座しておりました。

 タイトルの「『小 の虫』の怒り」は、著 者の後書きの一部を少し長いですが引用させていただきます。

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 「小の虫を殺して大の虫を助ける」という諺がある。「一部分を犠牲にすることで全体を生かすことのたとえ」と、辞書などに書かれている。
 私が最も嫌いな諺である。一つの社会を維持していいくためには、たしかにこの諺のような面もあるだろうが、これが正しい知恵なのだと主張されると、待っ てくれと言いたくなる。
 「小の虫」にも命はある。一回きりの命である。それを奪われてしまうのだから、「小の虫」としては、どんな理由をつけられようと、我慢できるはずはな い。
 例えば、再審問題を考えるときに、「小の虫」の身になるか、「大の虫を生かす」ことを重視するかで、立場は鮮明に分かれる。
 裁判官たちは、「法制度の安定性」のためには、一個人である請求人の要求に屈するべきでないと考えているようである。彼らは、そのような判断をすると き、恐らく、この「小の虫を殺して」の諺を思い浮かべ、これが正しいのだと、自分を納得させる。
 しかし、人間ひとりひとりの心理や行動に関心を持つ作家としては、むしろ「小の虫」に味方をしたい。いや自分自身が「小の虫」だと思っている。(後略)
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 私が佐野洋さんのファンである理由の一つが、佐野さんのこのようなものの見方です。

 内容は65年頃から93年頃までに各種媒体に書かれたエッセイが集められています。
 「小の虫」から見た権力の横暴などについて、軽妙洒脱な話題からかなり重い話題までが盛り込まれています。今回はどちらかといえば軽い話題を紹介しま す。重い話題は次回以降に紹介します。

◆推定無罪
 ハリソン・フォード主演で同名の映画にもなりました、スコット・トゥローの「推 定無罪」で、陪 審員を選ぶ時に裁判長は「この被告は犯罪を犯したと思っていますか?」との問いに「さあ、まだわかりません」と答えた陪審員の候補者は陪審員に選ばれない と書かれているそうです。
 なぜなら、「有罪が確定するまでは無罪を推定する」という法の精神が徹底されているからだとのことです。

 日本でも2009年には裁判員制度が実施されます。
 マスコミも、私たちも是非「推定無罪」の精神でおりたいものです。

◆警察官ネコババ事件
 88(昭和63)年大阪府堺市で起こった事件です。
 警察に届けた拾得金15万円を横領し、その罪を届け出た女性にかぶせようとした警察官(当時)を大阪地検は起訴しなかった。このためこの事件の真相は十 分に解明されることはなかった。
 検察、警察は身内の組織犯罪には、組織防衛の論理が働くようです。最近の裏金つくり問題も同様です。

 この事件は、読売新聞社大阪社会部が徹底した調査をして「警察官ネコババ事件」という 本になっています。
 私も読みましたが、善意の市民がヅルヅルとあれよあれよという間に犯人に仕立て上げられていくようすは怖いものでした。

◆「人生は損得ではない。それより名誉の方が大事だ」
 75(昭和50)年12月、当時20歳だった遠藤祐一さんはひき逃げ死亡事故の犯人とされ禁固6月(執行猶予2年)の判決を受けますが、無実を主張し 13年掛かって最高裁判所で無罪を勝ち取りました。

 禁固6月(執行猶予2年)の判決を「執行猶予つきだし、まあ我慢するか」という気持ちになれば長期の裁判をする必要もなかった。現実的にはその方が 「得」だったかもしれません。

 佐野さんは、「すべての価値を金銭に換算して考えがちな現在、こういう人こそ、教科書が取り上げるべきではないか」と書かれています。

 今回は「『小の虫』の怒り」の極一部を紹介しました。

◆尚州・自転車祭り
 10月 3日午後5時41分ごろ、韓国の慶尚北道尚州市(キョンサンブクド・サンジュシ)ファサン洞で「尚州自転車祭り」の行事の一つである「歌謡コンサート」に 集まった観衆が将棋倒しになって11人が死亡、44人がケガをする事故があった。
 「尚州・自転車祭りで下敷き死...死者11人、重軽傷40人余」(中央日報 2005.10.03 19:56:11)

 尚州の「自転車祭り」ってどんな行事なのでしょうか?
 サイクリング愛好者には少し気になる記事でした。
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