Google
WWW を検索 残日録内 を検索
←Back  Haiku  Photo Mail Archives Twitter  Next→

06/09/27 井上 ひさし「子どもにつたえる 日本国憲法
 日本国憲法9条を守ろうと活動されてい る「9条の会」 の呼びかけ人であり、憲法を守る発言を活発にされている井上ひさしさんの「子どもにつたえる日本国憲法」を紹介 します。
 今回は言葉の達人・井上ひさしの作品の紹介ですから、引用を中心に紹介することにします。

 井上ひさしさんの文と、いわさきちひろさんの絵で構成されていて優しい雰囲気の絵本のようです。
 1部は「憲法のこころ」と題した絵本仕立てで日本国憲法の前文と第9条の井上ひさし訳です。
 2部は「憲法って、つまりこういうこと」と、朝日小学生新聞に書かれた憲法の解説です。

◆この国のかたち(前文)
 <引用>
   :
   :
 私たちが、同じ願いをもつ
 世界のほかの国国の人たちと
 心をつくして話し合い
 そして力を合わせるなら
 かならず戦はなくなる
   :
   :
 この国の生き方を決める力は
 私たち国民だけにある
   :
   :
 私たちは、世界の人たちがみな
 こわがったり飢えたりせずに
 ただおだやかな生き方をしたいと
 願うのは
 当たり前だということを
 いま一度
 自分に言い聞かせ
 どんなことがあっても
 そのじゃまをしてはならないと
 たしかに決めた
   :
   :
 この決まりごとを私たちもきびしく守って
 日本国のことは、国民である私たちが決め
 ほかの国国の主人になろうとしたり
 家来になろうとしたりせずに
 どこの人たちとも同じ態度でつきあうことを誓う

 どんな国でもそうしなければならないと
 信じるからだ

 日本国民は
 これから築きあげようとする
 私たちの国のほまれのために
 ありたけの力を振りしぼって
 これまでに書いたことを
 やりとげる決心である
 <引用終り>

 この国のことを決めるのは国民、
 穏やかに生きたいという願いは誰も奪えない、
 心を尽くして話し合うことで戦争をしない努力をしよう、
 この国の誉れのために。

◆もう二度と戦はしない(第九条)
 <引用>
 私たちは、人間らしい生き方を尊ぶという
 まことの世界をまごころから願っている

 人間らしく生きるための決まりを大切にする
 おだやかな世界を
 まっすぐに願っている

 だから私たちは
 どんなもめごとが起っても
 これまでのように、軍隊や武器の力で
 かたづけてしまうやり方は選ばない

 殺したり殺されたりするのは
 人間らしい生き方だとは考えられないからだ

 どんな国も自分を守るために
 軍隊を持つことができる

 けれども私たちは
 人間としての勇気をふるいおこして
 この国がつづくかぎり
 その立場を捨てることにした

 どんなもめごとも
 筋道をだどってよく考えて
 ことばの力をつくせば
 かならずしずまると信じるからである

 よく考えぬかれたことばこそ
 私たちのほんとうの力なのだ
 <引用終り>

 勇気の湧いてくる言葉です。
 「殺したり殺されたりする」ことは人間らしい生き方の対極のもの。
 「人間としての勇気を奮い起こ」して、戦争と戦力の保持を放棄した。
 「言葉の力」をつくせば、戦争をしないで物事を解決できるはず。

 言葉・日本語の達人の言葉は、きれいで、やさしく、つよいのです。

◆日本国憲法の三つの考え方
 井上ひさしさんの前歯は入れ歯だそうです。
 入れ歯にするときに、歯医者さんに「生まれつきの出っ歯を普通の歯にして欲しい」と言われたら、歯医者さんの答えは「それはできません。その歯はあなた の基本的な顔の形だから・・」と。
 憲法もその国のかたち(個性)です。

 ◇国民主権:国のあり方を決める権利は国民にある
 ◇基本的人権の尊重:人が生まれながらに持っている権利を大事にする
 ◇平和主義:戦争をしない、争いごとは武器ではなく話し合いで解決する

◆平和主義は古い?
 憲法9条の中身が古いという人たちがいます。
 問題の解決のために戦争ではなく、言葉を持つ人類は話し合いを重ねることで解決できるはずです。

 <引用>
 第九条は、新しいものだといっていい。
 日本は正しいことを、ほかの国より先に行っているのです。
 「平和主義」という考え方は、
 人類にとっての理想的な未来を先取りしたものだといえます。
 <引用終り>

◆個人の尊重
 <引用>
   :
   :
 たとえ多数決の結果であっても、
 ひとりひとりが、自分たちのためにいちばんいい生き方をするのを
 だれもじゃますることはできないのです。
 これを「個人の尊重」といいます。
   :
   :
 <引用終り>

 そして憲法学者・樋口陽一さんの下記の言葉が紹介されています。
 「個人の尊重とは、この世に生まれたひとりひとりが
 自分であることを尊んで、
 自分が自分でなくなることをおそれること」

◆私たちの使命
 <引用>
   :
   :
 わたしは原爆が投下されたときから、
 私たち日本人は、世界の歴史のなかで
 特別な使命を背負ったのだと思います。
 将来、核戦争などの不幸が起こらないためには、
 日本国憲法の考え方を大切にするしかない。
 そしてそのことを人類に示す使命を負ったのです。
   :
   :
 日本国憲法の力で、
 世界中の問題を解決することができれば、
 私たちは人類の歴史に、
 まことに大きな贈り物をすることになるのではないでしょうか。
 <引用終り>

 前の戦争の多くの犠牲の中から生れた憲法、日本国憲法は人類の歴史からの贈り物です。
 私たち日本人には、日本国憲法を守ること、そしてそれを世界に示す使命がある。
 高貴な使命です。

 でも、市井の人間には何ができるのでしょう?
 「戦争はイヤだ」「殺し合いはイヤだ」と小さな声をあげつづけていきましょう。

◆ちひろさんの絵
 久しぶりにいわさきちひろさんの絵を見ることができました。

 ちひろさんが健在で、今回の原稿を見て絵を描かれたような錯覚に陥るほどです。
 P12、P13の「蝶の舞う野原」の絵は次の言葉にぴったりの絵です。
--------------------------
 私たちはそのようにかたく
 覚悟を決めたのだ
--------------------------

 巻末に使用された絵のタイトルが一覧があります。絵本は少し高いですが、また読んでみたいです。

◆紹介記事
 朝日小学生新聞への連載が元になっているだけに朝日新聞に紹介記事がありました。
 「子どもにつたえる『井上ひさし版憲法九条』」(朝日新聞 06/09/26)
inserted by FC2 system