10/01/04 朝
日俳壇、歌壇より
最近、京都で酒を
飲むことが多くなっています。もちろん、立飲みや大衆酒場ばかりですが。
私は食べたことはありませんが、この時期にそれらの店でよく注文されるものに「かす汁」があります。酒場でかす汁と最初は違和感もありましたが、具沢山
のかす汁を肴に熱燗もあるのかなと思うようになりました。
1月4日付けの朝日新聞の俳壇、歌壇より気になった句や歌を紹介します。
◆朝日俳壇
相変わらず難解な句が多く入選しています。
◇指定席一つ空け置く日向ぼこ(茨木市・瀬戸順治:稲畑汀子選)
◇極月や赤ちゃん車内観察中(東京都・矢野美与子:金子兜太選)
◇コロッケの三ケ百円着ぶくれて(彦根市・阿知波裕子:金子兜太選)
◇今ごろは京都あたりか毛糸編む(狭山市・宮倉浅子:長谷川櫂選)
◇年の夜のピアノの鍵をかけにけり(奈良市・杉田奈穂:大串章選)
これらの句の情景はわかるのですが、もう一つ理解ができない難しい句です。
◇天井裏奔流のごと嫁が君(養父市・足立威宏:金子兜太選)
「嫁が君」がわかりません。
手持ちの歳時記(ハンディ版入門歳時記:角川書店)では新年の季語のようで、以下のように書かれていました。
「鼠(ねずみ)の呼び名である。ただし、正月の三が日に
限り使われた忌詞(いみことば)である。(中略) 地方によっては、嫁御(よめご)、嫁女(よめじょ)、嫁御前(よめごぜ)、姉様(あねさま)、お福(ふ
く)、娘(むすめ)などと呼び、鼠と呼ぶことを嫌う風習がある。」
◇クリスマスわたしは俳句浪人で(藤沢市・安田明子:金子兜太選)
選者は「昨今は俳句浪人が増えているようだ」と評されていますが、「俳句浪人」がわかりませんでした。
考えてみるに、どの結社にも属さない俳人、師を持たず自由に俳句を楽しんでいる人のことでしょうか?
◇年の暮メモはあれども記憶なし(厚木市・斎藤正弘:長谷川櫂選)
字の下手なことも原因ですが、よくメモをするのに何のためのメモか思い出せないことが多くなります。
そのうちにメモしたことも忘れるようなことになるのでしょう。
◇手袋に五指の個性を納めたる(札幌市・岩本京子:大串章選)
5本あるいは10本の指にはそれぞれの役目があると同時に歴史があるように思います。
左手の人差し指には子どもの頃の肥後守(ひごのかみ)で切った傷跡が、小指の内側への曲がり具合は父に似ている。そんな指を愛おしみながら手袋をはめる
人、いいですね。
◆朝日歌壇
◇三万の兵を増やして六千を柩とともに帰す国なり(アメリカ・西岡徳江:永田和宏選)
ノーベル「平和」賞を受賞した大統領が、アフガニスタンに3万余の増派を決めた。この歌のように6千の兵士が丸太になって還されるのです。そしてアフガ
ニスタンではなんの罪もない人たちが殺され続けていること、またアメリカ兵が命を長らえて帰国した帰還兵の多くが心身を病んで自殺し、また「普通」の生活
ができないでいることを忘れてはならないと思います。
「平和のための戦争」などあるわけがない、オバマ大統領の詭弁でしかありません。
◇斬首刑受けるがごとく額(ぬか)づきし夫の頭に立てる泡、泡(盛岡市・白浜綾子:永田和宏選)
介護が必要な夫の髪を洗っておられる図かと思いましたが、奥さんに髪を洗ってもらう方が多いのでしょうか?選者の次の評を読んでもっと明るい歌のように
思いました。「なかなかのブラックユーモア。洗われている夫はよもやそんなこととは思ってはいまい」
◇手袋の右手落ちゐてこの街に右手冷たき一人あるべし(仙台市・坂本捷子:永田和宏、佐佐木幸綱選)
優しい歌です。道端に落ちている片方の手袋を見て落とした人の冷たくなった右手に思いを馳せるとは優しい心の方でしょう。
◇元旦の陽はやわらかにふりそそぐ兵器製造工場の屋根にも(新潟市・太田千鶴子:馬場あき子選)
歌はおぞましい人殺しの道具(兵器)を作っている兵器工場の屋根にも正月の陽は隔たりなく降り注ぐ様子を歌われています。
大手の電機メーカをはじめとして私たちの身近なところに軍需産業の工場があります。そこでは人殺しの道具や人殺しを支援する雑多な物品を作っています。
戦力を放棄した憲法を持つ国に軍需産業がある矛盾はどうしたらよいのでしょう。
◇饅頭屋は息子がつくりし特産のぎんなんパイを寡黙に売りぬ(稲沢市・丸山勝也:佐佐木幸綱選)
銀杏は愛知県稲沢市の名産かと思いましたが、Googleで調べると下関の名産に「ぎんなんパイ」というのがありました。
町のあまり大きくない饅頭屋の2代目か3代目の息子が考案した新作のパイを「そんなもの売れるかい」と反対したかも知れない親父さんが売っている風に読
みました。
◇モップ胼胝(だこ)ひび割れ痛む手をさする漸く得たる職場の隅に(秩父市・高橋秀文:佐佐木幸綱選)
よくわかる、共感できる歌です。
ハローワークに行っても求人票にあるのは清掃作業などばかりでその人の経験や技能をとるものは皆無です。私も慣れない力仕事で毎日あちこちの筋肉が痛ん
でいます。
◇飲助の謗(そし)り恐れず 焼き蟹で燗酒を酌む至福想えば(舞鶴市・吉富憲治:高野公彦選)
贅沢な飲兵衛です。蟹は蟹すきよりも焼き蟹が甘さも増して美味しいですね。
なんと言われようと美味しい肴と旨い酒があればこんな幸せなことはありません。
◆第26回朝日俳壇賞
09年の俳壇賞を受賞句を紹介しておきます。
◇長谷川櫂選
河馬二トン春水二トン動かせり(埼玉県宮代町・鈴木清三)
◇大串章選
大阿蘇の山焼き楽の沸くごとし(藤沢市・木村みどり)
◇稲畑汀子選
声までも紅葉に染まり戻りけり(旭川市・大塚信太)
◇金子兜太選
白息の華麗な暁(あけ)の電話かな(船橋市・斉木直哉)
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