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13/01/22 朝日俳壇、歌壇より
 前回の記事で書き忘れたことがあります。
 昨年の自殺者数が15年振りに減少したと報じられていたことに対して、
生活保護費の削減、消費増税など先行きに不安があ る中で違和感があると書きましたが、もう一つ大事なことを書き忘れていました。東京電力福島第一原発の事故、放射能汚染と いう大きなストレスも不安の大きな原因であると思います。

 さて、昨日は梅田のシアター・ドラマシティで「組曲虐殺」の最終日の公演を観て来ました。
 特高警察により29歳の若さで虐殺された小林多喜二を描いた井上ひさしさんの最後の戯曲です。「むつかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふか いことをおもしろく」という井上ひさしさんの言葉どおりに随所に笑いを誘う芝居でした。

 多喜二が特高警察に捕まりそうになった時、同居しているふじ子がピストルを持ち出すと多喜二は「僕の思想に人を殺すという思想はない、人の命を大事にし ない思想に価値はない」と決めるのですが、ピストルを取り上げた刑事が引き金を引くと銃口から飛び出したのは造花、おもちゃのピストルだったのです。会場 大爆笑。

 小林多喜二が国家権力に虐殺されたこと、権力とはここまでするのだということを忘れないために「こまつ座」のホームページより虐殺の様子を転載します。

母 や弟や恋人や同志たちのもとへ、彼は死体となって戻ってきた。
コメカミの皮が剥ぎ取られている。
頬には錐で突き刺された穴がある。
アゴの下が刃物で抉られている。
手首に足首に縄目のあとがあるのは天井の梁から吊されて拷問されたからだ。
下腹部から大腿部にかけてが、陰惨な渋色に変色している。
陰茎も睾丸も同じ色で、しかも、大きく膨れ上がっている。
同士の中に医者がいて、丹念に調べた。
「この変色は弓の折れか棍棒で、メッタ打ちに殴りつけられてできた内出血の跡です。錐を突き立てたような傷あとが二十近くもありますが、これらは畳屋で使 う針を突き刺して抉ったものでしょう」
右の人さし指が折れてぶらぶらしてる。
「蟹工船」のような小説を、二度と書けないようにするために、刑事たちがへし折ってしまったのだ。
同志たちは後日の証拠のために、何枚も写真を撮った。
おしまいに同志の千田是也と佐土哲二が、ていねいにデスマスクをとった。

 1月 21日付けの朝日新聞の俳壇、歌壇より気になった句や歌を紹介します。

◆朝日俳壇
◇少年の凧に急かされ走りけり(嘉麻市・松井春光:大串章選)
 選者は「『凧に急かされて』が面白い」と評されていますが、「急かされて」という語感は後ろから追われるような感じを受けます。「凧(糸)に引っ張ら れ」の感が強く思う。

◇遊びでも仕事でもなく毛糸編む(川西市・上村敏夫:稲畑汀子選)
 この人と編み物の関係は?と思いました。作者が男性なのにも驚き。
 歌壇の入選歌にこんな作品がありました。
 <父母に編み夫子に編んで孫に編み編物人生終りに近し>(浦安市・白石美代子:高野公彦選)

◇頬被(ほおかむり)するより仕方なかりけり(昭島市・しもだたかし:金子兜太選)
 不祥事を起こした会社の経営者か、不適切発言の政治家か、頭を下げれば後は頬っかむりで知らぬ顔の人たちの開き直りかと思いましたが、選者は「『頬被』 が二様に受け取れる妙味。淡々と言い切って、妙味更に」と評されています。
 冷たい風を受けて頬かむりでもする他ないとも。

◇福島や漂流なほも去年今年(三郷市・岡崎正宏:金子兜太選)
 先日NHKで「老人漂流社会」という物理的にも行き場のない老人問題を取り上げていたそうですが、「漂流」なら流れ着く岸も あるでしょうが、彼らは国、社会から棄てられた「棄民」なのですから漂い着ける場所はありません。
 福島の原発事故の被曝者も同じ。

◇我老いし雪女もまた老いにけり(藤沢市・寺田篤弘:金子兜太選)
 雪女が出没するのは童話と俳句の世界だけのような。老いた雪女なんぞ唆られることはありません。

◇来るはずと袋に名前祝箸(東京都・宮内曳光:長谷川櫂選)
 父が生きていた頃の懐かしさを感じました。
 母は健在ですが、家(いえ)の実権を手放した今では家のことに口出しは出来ません。

◆朝日歌壇
◇髭(くちひげ)から髯(ほおひげ)さらに鬚(あごひげ)と患者の顔になりたる夫(長岡市・国分コズヱ:高野公彦/永田和宏選)
 ヒゲという漢字もいろいろなのですね。
 僅か2週間ほどの入院経験では髭(私の場合は頭も)を剃らなければますます病気になりそうでした。

◇飯館とう村通らねば生家には辿りつけない雪容赦なし
(下野市・若島安子:永田和宏選)
 飯館村は福島第一原発の爆発後の北西の風で高濃度に汚染された地域です。その飯館を越さねば生家に行けない。生家も放射能に塗れていることでしょう。

◇肉体も心もかよわない男の姓で呼ばるる今日も(静岡県・竹田京子:永 田和宏選)
 哀しい歌です。
 日本では結婚すると女性が男性の姓を名乗ることが多い、女の人は人生の大部分を男性の付属物のように生きて行かなければならないのです。

◇南天の一枝活けて春を待つ除染進まぬふるさと遠く(下野市・若島安子:馬場あき子選)
 若島さん二首目の入選作です。春を待っているけれど除染は進まない。
 除染って「汚れを取り除く」のではなく、「汚れを違う所に除ける」だけなんですね。雨が降り風が吹けば元の木阿弥です。

◇カツカツと軍靴の迫る音響き白泉(はくせん)の句を黒板に書く(小松市・沢野唯志:佐佐木幸綱選)
 もはや戦前という世情になってきました。軍靴の音も近づいてきます。渡辺白泉の反戦句を教えて暮れる教師っていいですね。

◇診察を待ちつつ諍(あらそ)う夫婦あり声潜(ひそ)めるも女が強し(福岡市・末松博明:佐佐木幸綱選)
 先の竹田さんの歌で社会的には女性は弱いものと書きましたが、戦後強くなったと言われる女性ですが江戸時代から下町の女房は強かったようです。

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