母
や弟や恋人や同志たちのもとへ、彼は死体となって戻ってきた。
コメカミの皮が剥ぎ取られている。
頬には錐で突き刺された穴がある。
アゴの下が刃物で抉られている。
手首に足首に縄目のあとがあるのは天井の梁から吊されて拷問されたからだ。
下腹部から大腿部にかけてが、陰惨な渋色に変色している。
陰茎も睾丸も同じ色で、しかも、大きく膨れ上がっている。
同士の中に医者がいて、丹念に調べた。
「この変色は弓の折れか棍棒で、メッタ打ちに殴りつけられてできた内出血の跡です。錐を突き立てたような傷あとが二十近くもありますが、これらは畳屋で使
う針を突き刺して抉ったものでしょう」
右の人さし指が折れてぶらぶらしてる。
「蟹工船」のような小説を、二度と書けないようにするために、刑事たちがへし折ってしまったのだ。
同志たちは後日の証拠のために、何枚も写真を撮った。
おしまいに同志の千田是也と佐土哲二が、ていねいにデスマスクをとった。 |