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05/02/20 加島 祥造「タオ−老子−

 この本との出会いは、数年前に知人宅でテレビ番組の録画を見せてもらったことに始まります。テレビ は、加島祥造さんが伊那谷の山荘で暮らされている様子とタオ・老子に関するインタビューを放送していました。

 当時は老子も加島祥造さんも知りませんでしたが早速購入し読んでみました。
 その後、この本は5冊も買ってしまいました。読んではどなたかに差し上げてしまい、また読みたくなって買うことの繰り返しです。

 老子は、紀元前5世紀中国春秋時代の思想家で、「老子」という書物を書いたと伝えられています。
 「老子」は上下2巻で構成されていて、上巻を道経(1章〜37章)下巻を徳経(38章〜81章)と称するようです。また、全巻を「道徳経」「老子道徳 経」とも称されるそうです。

 加島祥造さんは、1923(大正12)年生れで、横浜国大、信州大学などで教鞭をとられた英米文学者であり、詩人でもあり画家でもあられます。現在は伊 那谷に暮らされています。
 「タオ・ヒア・ナウ」、「伊那谷の老子」、「老子と暮らす」等老子に関する著書もたくさんあります。

 この「タオ−老子−」は漢文からでなく、英訳された「老子」を底本にした加島さんの口語訳詩です。
 平明な文章で書かれていますが、2500年前の哲学書です。浅学の私などにはとても理解できるものではありません。

 しかし、加島さんは「あとがき」で、このように言われています。(少し長いですが引用します)
 「はじめにお願いしておきたいことがある。この『あとがき』を読む前に、まず本書全81章を読んで欲しい。そのうちの二章でも三章でもよいし、偶然開い たページでもよい。というのは、他の人からの先入観や予備知識なしに、いまのあなたのままで『老子』の言葉に接し、自分の中に共感するものがあるかどう か、験(ため)してほしいからだ。それがどんな共感でも構わない。とにかくはじめに、頭だけで解したり判断したりしないで欲しい。『私の言うことを聞い て、多くの人は馬鹿くさいホラ話だと笑う』−こう『老子』は言っているが、それはその多くの人が頭だけでしろうとしたからのことだ。『老子』を分かるには 頭で取り入れることも必要だが、まず胸で、腹で、さらには全身で共感することで、はじめて『老子』の声が聞こえてくる。そして彼のメッセージを感得できる のだ。(後略)」

 加島さんが「あとがき」で言われているように、私の印象に残ったいくつかの章をご紹介します。

◆生きると言うこと、生きていると言うこと
 時々、自殺願望があるのですが、この章を読んでみるとなぜか力がでてきます。
 わざわざ自らが死を選ばなくても、”固いものに近づいてゆく期間”なのです。
 命を「そっと」大事にして生きていきましょう。

 ◇第50章 生命(いのち)を大切にする人は
  人は生まれて、生き、
  死んで、去ってゆく。
  三十までは柔らかで若くて
  生命(いのち)の仲間だといえる。
  六十をすぎてからの三十年は
  こわばって老いて
  死に近づいてゆく。このふたつの三十の間の
  壮年期の三十年は、まあ
  しきりに動きまわって、どんどん
  固いものに近づいてゆく期間だよ。

  どうしてこんなサイクルになるかって?
  それはね、ひとが
  生きるための競争に
  こだわりすぎるからだよ。

  聞いたことがある−
  生と死は同じサイクルの中にある、
  それを知って、
  命(いのち)をそっと大事にする人は
  旅をしてもけっして
  猛獣のいるところへは行かない。
  軍隊に入れられても
  武器を取る役には廻らない。
  だからその人生では
  虎の爪や犀の角に出くわさないし
  凶暴な人物の刃にもかからない。
  それというのも
  生をとても大事にしているからなんだ。
  自分の命(いのち)を大切にして生きるかぎり
  死はつけいるすきがないんだ。

◆他人の目
 周りの人、周りの人がどう見ているかが気になる性格です。
 気にしないようにしましょう。明けない夜はないのですから。

 ◇第23章 タオの方から助けてくれるさ
  まわりの人が
  君のことをあれこれ言ったって
  気にしなきゃいいんだ。
  台風は上陸したって、
  半日で過ぎ去る。
  大雨(おおあめ)は、いくら降ったって
  二日とはつづかない。
  道(タオ)につながる大自然でさえ
  この程度しかつづかないんだ。

  ましてや人間関係の騒ぎなんて
  気にすることはないのさ。
  タオにつながる人とだったら無事だが
  タオに欠けた相手だったら、
  君は
  その欠けたところで付きあったらいいんだ。
  相手の欠けたところを楽しめばいいんだ。
  信じられない人にたいしても
  同じことさ。
  こういう自然の働きに従えば
  タオのほうでも君を助けてくれるのさ。

◆戦争屋
 アメリカがイラクに侵攻した時に、この章を思い出しました。
 どこかの軍艦の上で、ブッシュさんは”葬儀の礼”を以て、イラク戦争の勝利を宣言したのでしょうか?”人を殺して楽しむ”ような人が率いる国が破滅の道 を進みませんように。
 この章は、加島祥造訳と原文、英語訳を並べてみます。

 ◇加島祥造訳
 第31章 人を殺して楽しむ者よ
  恐ろしいことにこのごろは
  こんな常識さえ忘れはじめているんだが、
  武器というものは悪い道具−凶器なんだよ。
  本当は
  どんな人だって嫌うものなのだ。
  だからタオの命につながる人は
  この道具を使おうとしない。
  むろん、前に言ったように
  どうしても仕方ない時には用いるさ。
  しかしその時でも
  最小限のところにとどめるんだ。そして
  勝ったって得意にはならない。
  得意になるような者は
  人を殺して楽しむようになる。
  その野望の極みまで行く、
  そして国を破滅に導くんだ。

  だからタオにつながる人は
  戦いに勝った時の祝いを
  葬儀のようにするんだ。
  多くの人を殺したことを
  悲しんで泣くのだ。
  まことに
  勝利は葬儀の礼ですべきものなんだよ。

 ◇原文
 第三十一章[偃武]
  夫佳兵者不祥之器也。物或惡之。故有道者不処。君子居則貴左。用兵則貴右。兵者不祥之器也。非君子之器。
  不得已而用之。恬惔為上。勝而不美。而美之者、是樂殺人。夫楽殺人者、則不可以得志於天下矣。
  是以吉事上左、葬事上右。是以編將軍処左、上將軍処右。言以喪禮處之也。殺人之衆、以悲哀泣之、戦勝以喪禮処之。

 ◇英語訳(The Wisdom of Lao Tse by Lin Yu-tang:林語堂 1943)
 「戦勝以喪禮処之」の部分
 A victory should be celebrated with the Funeral Rite.

◆大切なもの、何を得て、何を失うか
 自分の身体よりも、家庭をよりも、もっと大事なものがあると思っている時期がありました。少しは手に入れた事もありましたが、もっと大事なものを失って いました。少々気がつくのが遅そ過ぎましたね。

 ◇第44章 もっとずっと大切なもの
  君はどっちが大切かね−
  地位や評判かね、
  それとも自分の身体かね?
  収入や財産を守るためには
  自分の身体(からだ)をこわしてもかまわないかね?
  何を取るのが得で
  何を失うのが損か、本当に
  よく考えたことがあるかね?

  名声やお金にこだわりすぎたら
  もっとずっと大切なものを失う。
  物を無理して蓄めこんだりしたら、
  とても大きなものを亡くすんだよ。

  なにを失い、なにを亡くすかだって?
  静けさと平和さ。
  このふたつを得るには、
  いま自分の持つものに満足することさ。
  人になにかを求めないで、これで
  まあ充分だと思う人は
  ゆったり世の中を眺めて、
  自分の人生を
  長く保ってゆけるのさ。

◆ユートピア
 こんな国、こんな世界に住みたいですね。
 でも、それは私やあなたが作るしかありません。

 ◇第80章 理想の国
  私は国境のない世界を願っているが
  まだ無理のようだから、まあ
  自分の理想とする国を、描いてみよう。
  私の大切にしたいのは
  大きな国でも強い国でもないよ。
  ほんの小さな、まあ、
  村落の集まりのようなものだ。
  人口もごく少ない。
  住民たちは、
  いろいろの道具を持ってはいるが
  ろくに使おうとしない。みんな
  命(いのち)をとても大切にするから
  危険な旅なんかに出ない
  舟や車は持ってるんだが、ほとんど
  乗らないってわけだ。同じように
  武器もちっとは備えているけれども
  誰も使わないし
  商取引をするには、ただ
  ごく単純な数え方ですます。

  それでいて
  食事はゆったりと、おいしい物を食べ
  着るものは美しい上等な服、
  日々は安楽であり、
  習慣を乱(みだ)そうともしない。
  隣の国は近くて、
  犬の吠える声や鶏の鳴く声が聞こえるほどだが、
  そんな隣国とも往来しない、
  そして、ずいぶん歳をとってから
  静かに死んでゆく。

 「老子・道徳経」は2500年前に書かれたものです。病むことの多い現代に生きる私たちに大きな教えを与えてくれます。
 また、加島祥造さんの言葉で生き生きと蘇っています。是非お読みください。

◆スポーツ選手と喫煙
 今日(20日)、夕刻のニュースでプロ野球・ファイターズのダルビッシュ投手が未成年にもかかわらず喫煙していたとの報道がありました。未成年者の喫煙 はともかくとして、プロ野球の選手には喫煙習慣のある人が多いようです。
 タバコ吸いながらできるようなプロスポーツって何故か信用できませんね。

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