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05/09/07 藤沢 周平「秘太刀馬の骨」

 NHKの「NHK金曜時 代劇」で藤沢周平さんの「秘 太刀馬の骨(ひだ ち・うまのほね)」が放映されています。
 第一回と第二回を見ましたが、その感想は後ほど。

 (05/09/01)に も書きましたが「秘太刀馬 の骨」は、私が藤沢作品に親しむきっかけとなった本です。
 NHKでのドラマ化に誘われて再読しましたので紹介します。

 この小説の舞台は海坂藩(うなさか・はん)とは明記されていませんが、五間川に架かる橋を行き来する描写があり、一般には「海坂もの」と いわれています。

 東北地方の城下で、筆頭家老が暗殺された。検死をした役人は「馬の骨か」とつぶやいたそうです。

 暗殺された家老の派閥を継いだ現家老・小出帯刀は暗殺者の影に怯えて、江戸住まいの甥の石橋銀次郎を国許に呼び寄せ、その「秘太刀馬の骨」の使い手を探 らせます。

 帯刀が近習頭取に取り立てた浅沼半十郎を、銀次郎の案内役、補佐役そして護衛役にと使うことにします。
 半十郎は気鬱を病む妻・杉江と幼い子供を抱えている下級管理職です。非番の日や夜間に銀次郎の供をして「馬の骨」の探索に付き合わねばなりません。
 非番の日や夜間の外出は杉江の心を一層硬く閉ざすことになります。

 「馬の骨」は矢野藤蔵の祖父が開いた矢野道場に伝わる秘剣です。
 矢野道場の5人の高弟の誰かに「馬の骨」が伝授されているだろうと、一人一人を訪ねていきますが、相伝された「秘太刀」が簡単に明らかになるはずはあり ません。

 銀次郎は策を弄して一人一人の弱みを掴み、立ち会いを迫ります。
 半十郎が仲介者となって、彼らの秘密を公開しないことを条件に銀次郎と立ち会います。
 銀次郎は「馬の骨」の使い手かどうかを見極めるためは竹刀でなく木刀で立ち会わねばらならぬと、互いに怪我をしながらの激しい立ち会いを繰り返すことに なります。

 矢野藤蔵は「誰が『馬の骨』を継いだとしても、絶対口外してはならぬ。どうしても石橋銀次郎と立ち会わねならなくなった場合でも命を捨てても『馬の骨』 を使ってはな らぬ」と高弟たちに申し渡します。

◇大納戸・沖山茂兵衛
 大納戸で商人との付き合いの多い茂兵衛への賄賂の存在を探った銀次郎は、そのことを伯父・帯刀に知らせると脅して立ち合わせます。

◇普請組・内藤半左衛門
 早世した息子の嫁と半左衛門との不義密通を邪推した銀次郎は、当時の内藤家の下僕を探し出し証言を得ますが。

◇兵具方・長坂権平
 意気地がなく失敗を重ね禄高をドンドン減らされるような亭主に愛想をつかして女房は家を出ていってしまいます。
 そんな男やもめの権平に、銀次郎と立ち会えば禄高を半分戻すように帯刀に約束させると言って立会いを迫ります。

◇近習組・飯塚孫之丞
 好きな女性の幸せのためにと、御前試合で勝ちを相手に譲ったとの疑いを探られた孫之丞は銀次郎と立ち会わざるを得なくなります。

◇御番頭・北爪平九郎
 平九郎は次男坊だったが兄の急逝で北爪家を継いだ。
 その兄嫁との中を銀次郎に嗅ぎつけられて、立ち会うことになります。

 銀次郎と半十郎の「馬の骨」の探索の筋と同時に、半十郎と気鬱を病む妻の杉江の心の通い合い、帯刀と対立する杉原派や藩主の命を受けて国許の不正を探る 側用人石渡新三郎の動きなどが交差して、わくわくどきどきの読み物です。

◇お国言葉
 この小説では庄内の言葉がたくさん出てきます。
 登場人物は、上司の前など公の場では江戸言葉を使いますが、仲間内や自宅では感情豊かなお国言葉を使っています。

 半十郎と杉江の兄で半十郎の友人新兵衛との会話です。
 「杉江はその後、どげだ?」
 「あいかわらずだ」
 「いだわってやってくれよ」
 「いだわっておる」

◇エンディング
 初期の藤沢作品は、周平さんの人生(発病、療養、結婚、妻との死別、、)と同じように暗い印象の作品が多いのですが、最近映像化されている作品は、暗い 時 代を抜けられた後の作品が多いと思います。

 この小説も最後が下記のように閉じられています。

 旦那さま、奥様はもうご病人ではござりませぬ。お屋敷に入れば、すぐにそのことがおわかりになりましょう。

◆藤沢作品の人気
 藤沢周平さんは不思議な人です。
 私のような世の片隅の人間から、共産党機関紙・赤旗への連載もあり、左翼と言われる脚本家や監督が映像化を希望し、経済誌が特集を組んだり、経営者にも ファンを持ち、映画館に首相の足も運ばせます。

 こんなに色々な人から評価される作家は珍しいのではないかと思います。

◆NHK金曜時代劇・秘太刀馬の骨
 原作の上映権を取得した場合、脚色はどこまでが許されるのでしょうか?
 原作者が亡くなっている場合は誰が脚本を承認するのでしょうか?(承認を撮る必要もないのかも知れませんが)

 この小説のテーマの一つは気鬱の病を患っている半十郎の妻・杉江と、その妻を労わりながらも悩んでいる半十郎の心にあると思っていますが、ド ラマでは明るく快活な良妻・杉江が出てきます。

 また、この小説は一般的には「海坂もの」と呼ばれているものです。ドラマでは舞台をわざわざ向坂(さきかさ)藩とされていま す。

 斬新な試みなのでしょうか、小道具などが前衛的な生け花のようなものが出てきます。山田洋次さんの作品(たそがれ清兵衛や隠し剣鬼の爪)を見た目には 安っぽく、嘘っぽいセットに見えました。

◆武士の名前の日本語変換
 私はパソコンの日本語変換に「マイクロソフトのIME2000」を使っていますが、助左衛門と変換するのに”すけざえもん”と打ち込み変換しますと「助 座衛門」と変換されてしまいます。
 武士の名前は、パソコンの辞書に無いようで毎回辞書に登録をして使っております。
 中々不便なことです。
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