08/08/04 森
英介「風天
渥美清のうた」
今日(2008年8月4日)
は、渥美清さんが亡くなって13年目の命日、仏教でいう13回忌です。(渥美清さんはキリスト教徒だったそうですが)
渥美清さんは私生活を徹底的に秘匿していたために、死の公表も荼毘に付してからだったそうです。
俳優・渥美清さんの俳人(俳号:風天)としての一面とその俳句を紹介
した「風天 渥美清のうた」を紹介します。
風天句集かと思って買いましたが、内容は風天句の発掘、句友や所縁の人などへのインタビューを通して作句の原風景を探すこと、そして全句の紹介で、少々
ゴテゴテと
して内容です。
寅さんファンには良い読み物かもしれません。
◆風天の参加していた句会と発表句
◇アエラ句会(45句)
朝日新聞発行の週刊誌「アエラ」の編集者や寄稿家をメンバーとした句会
◇話の特集句会(135句)
話の特集誌の編集長・矢崎泰久氏が始めた多彩なメンバー
◇トリの会(9句)
◇たまご句会(29句)
◇私信(3句)
◆風天所縁の人たち
筆者が、風天句の原風景を知ろうとインタビューをされた方は多士済済です。
◇井出勢可(いで・せいか)さん
井出さんは関敬六さんとの付き合いから撮影所に見学に行くうちに渥美清さんと知り合いになられた方です。
今は、長野県小諸に「渥美清こもろ寅
さん会館」の館長です。会館には渥美清さんが受賞された国民栄誉賞の楯も寄贈されて展示されているそうです。
◇小沢昭一さん
小沢昭一さんは中々の人です。インタビューの中で下記のように言われ
ています。
「繰り返しますが、俳句は友達との茶話会をやるという感じ。よけいなこと、大きなお世話だろうけど、俳句を使って渥美清論をやろうというのは、ナンとい
うか砂上の楼閣みたいなもの。寅次郎は出ていても渥美清は出てこないと思いますよ」
さすがです。
風天の句で、渥美清や田所康雄を論じるには無理があると思いました。風天は俳句の世界でもフーテンの寅を演じなければならなかったのではと感じます。
◇子息・健太郎さん
「父は我々家族を外に出しませんでしたが、それと同じように外のことは一切、家に持ち込みませんでした」
「母と二人で全部目を通しましたが、母が覚えていたのが二つありました。散歩のときだったか食事のときだったかに『こんなの作ったよ』と意って口にした
らしい。
<いまの雨が落としたもみじ踏んでいく>
<にんにくの臭う体操教師暗くまで>
の二句です。」
◇早坂暁さん
渥美清さんは、山頭火や放哉を演じたいと思い、脚本家の早坂暁さんとシナリオハンティングもされていたそうです。
(引用)なぜ、放哉なのか? と聞くと、非常に俳優らしい答えが返ってきた。放哉は結核で死んでいったが自分も結核で随分苦しんだし、今も苦しんでい
る、言うんです。
漂泊、孤高、自由律の俳人は私も好きな人たちですが、渥美清さんは自身が孤高の人であったからでしょうか。
◆清
水哲男「新・増殖する俳句歳時記」
詩人の清水哲男さんは主宰されるインターネットの「増殖する俳句歳時記」で風天句を取り上げています。
「赤とんぼじっとしたまま明日どうする」
---(引用前略)----
お前、明日はどうするんだい。そう言ってはナンだが、何かアテでもあるのかい。この優しい呼びかけは、もとより自身への呼びかけ
である。お互いに、風に吹かれて流れていく身なのだからさ。と、赤とんぼを相棒扱いにして呼びかけたところに、露風とはまた違う生活感のある人間臭い抒情
味が出た。
---(引用中略)----
このことを知ると、どうしても「寅さん」が詠んだ句だと映画に重ね合
わせて読んでしまう。
止むを得ないところだが、しかし、そういうことを離れて句は素晴らしい。「どうする」の口語調が、とりわけて利いている。この秋の赤とんぼの季節も、そろ
そろおしまいだ。「明日どうする」。どうしようか。「アエラ」(1996年8月19日号)所載。(清水哲男)
---(引用終り)----
◆俳号
前(残日録05/01/30)に書きましたが、山頭火や井泉水は、五行納音からの命名だそうです。
次に記すのは「話の特集句会」のメンバーの俳号です。洒脱なものもあ
り俳号は面白いものです。
「話の特集句会」メンバー
矢崎泰久:華得(かとく)/和田誠:独鈷(どっこ)/永六輔:六丁目(ろくちょうめ)/小
沢昭一:変哲(へんてつ)/富士眞奈美:衾去(きんきょ)/岸
田今日子:眠女(みんじょ)/灘本唯人:晩爺(ばんじ)/黒柳徹子;楼蘭(ろうらん)/山
本直純:笑髭(しょうひ)/草森紳一:長吉(ちょうきち)/八木正生:路迷男(ろめお)/
高橋睦郎;荒童(こうどう)/山下勇三:今困(こんこん)/藤田敏雄:舎楽斎(しゃらくさい)/山
口はるみ:はる女(はるじょ)/長新太:王丸(おまる)/浅
井慎平:風太(ふうた)/渡辺武信:大流(たいる)/中山千夏:線香(せんこう)/下
重暁子:郭公(かっこう)/吉永小百合:鬼百合(きうり)/う
つみ宮土里:松蔭神社(しょういんじんじゃ)/山藤章二:三魔(さんま)/中
村八大:大八(だいはち)/小池一子:市女(いちじょ)/土屋耕一:柚子湯(ゆずゆ)/桜井順:吉利人(きりんど)/矢吹
申彦:申人(さるんど)/平松尚樹:子松(こまつ)/麹谷宏:二月堂(にがつどう)/大竹雄介:逐電(ちくでん)/小室
等:歌ん亭(かんて)/斎藤晴彦:明神下(みょうじんした)/田村セツコ:パル子(ぱる
こ)/白石冬美:茶子(ちゃこ)/色川武大:水眠(すいみ
ん)/岩城宏之:蕪李(ぶり)/吉
行和子:窓烏(まどがらす)/俵万智:沙羅(さら)/黛
まどか:かまど
◆記念館
渥美清さんを偲ぶ記念館は以下の2館です。
◇葛飾柴又寅さん記念館
◇渥美清こもろ寅
さん会館
◇渥美清さんの出身校東
京都板橋区立志村第一小学校にも「寅さんふれあいルーム」というのがあり、子ども達の自由研究の成果なども展示さ
れているそうです。
◆読後感
後段には、風天句が掲石寒太さんの解説つきで掲載されています。
歳時記の例句や、投句の紹介であれば解説も有用とは思いますが、この場合解説は不要だと思いました。
俳句を含め創造物は、一旦作者の手を離れれば色々な解釈がされるものです。出版物で一つの解釈を読まされるのは作者にも読者にも要らぬお世話思います。
俳人・風天に関する簡単な紹介と句を並べるだけでよかったのではないかと思います。
◆好きな風天句
専門家によると、風天の句は素直ではあるが「うまい」句ではないとのこと。誰かが手を入れれば随分良くなるそうです。
私に句の良し悪しはわかりません。今気になる句を羅列します。
◇赤とんぼじっとしたまま明日どうする
◇がばがばと音おそろしき鯉のぼり
◇うつり香のままぬぎすてし浴衣かな
◇うつり香の浴衣まるめてそのまに
◇枝豆の皮だけつまむ太い指
◇いわせれば文句ありそなせんべえ布団
◇またぐらに巻き込む布団眠れぬ夜
◇団扇にて軽く袖打つ仲となり
◇花冷えや我が内と外に君の居て
◆朝日
俳壇、歌壇から
8月4日付け朝日新聞の「朝日俳壇」「朝日歌壇」から気になった句をいくつか紹介します。
◇帰省子の茶髪や何も語らずに(北広島市・軽部進:大串章選)
◇あめんぼう曲りは嫌いすいと生(い)く(吹田市・佐野仁紀:金子兜太選)
◇新型の爆弾とのみ原爆忌(吹田市・田辺不二男:長谷川櫂選)
1945年8月7日未明、同盟通信(共同通信の前身)トルーマンの「今から16時間前、米国の1航空機は日本の重要陸軍
基地、広島に1個の爆弾を投下した。TNT(火薬)2万トンよりも強力で(略)それは原子爆弾である」との情報を受信していたことが分かったそうです。(http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/38817?c=110)
暑い原爆の夏です。
「落し文人差し指と比べけり」(古賀昭子)という句がありました。
「落し文」を、恋する人からの密やかな手紙だろうかと読むと句意が読みきれません。
ネットで調べてみると夏の季語で、クヌギなどの葉っぱをオトシブミという昆虫が葉巻風に巻いたものだそうです。分からないことが多過ぎます。
◇人は誰もかなしみの壺いだきいるかなしい時はつぼが傾く(四条畷市・中嶋テル子:高野公彦選)
◇「さよなら」と振るため「また」と握るため手はあるものか別れゆく道(夕張市・美原凍子:永田和宏選)
◇「大阪に帰れ」とデモに叫ばるる日本生まれの大統領は(飯塚市・キム・英子・ヨンジャ:永田和宏選)
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