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10/02/05 井上ひさし「ふふふふ」

 生きていればよい こともあるものです。
 派遣先の会社での労働環境について苦情を申し立てたら雇い止めされ、派遣元と派遣先の会社を相手に損害賠償を請求した知人の裁判で和解が成立したとの案 内をもらいました。派遣元、派遣先の会社が慰謝料を払うことで和解が成立したそうです。
 よかったと思うと同時に40歳を越えた知人のこれからの生活を思うとただ喜んでばかりはおれません。

 非正規雇用の労働者が全
労働者の3分の1を占めています。こんな世の中では労働者を物のように繁忙期だけ雇う、気に入ら なければ解雇(雇い止め)する、解雇しても次から次に求職者はある、このように労働者を無権利状態で使うことができるという風潮が企業規模の大小を問わず 経営者側にあるように思います。

 是非、労働者派遣法は「改正」でなく「廃止」をしてもらいたいものです。

  井上ひさしさんの「ふふふふ」を紹介します。「小説現代」に連載されたエッセーをまとめられたものです。同様のタイトル「ふふふ」は「残日録09/09/03」 で紹介しています。

◆不幸な子どもたちのこと
 爆風神父フライ・トルメンタというプロレスラーをご存知でしょうか?

 「年の頃は五十前後、中年太りした体はぶよぶよで、首筋には何本もの皺(しわ)が刻まれており、あちこちに怪我や手術の痕(あと)があって、それこそ満 身創痍(そうい)である。ふだんでも関節という関節が絶えず痛みを訴えつづけていて、リングに上がる前に痛み止めの注射を何本も打たなければならないくら いだった」(引用)

 なぜ彼はそんなにしてまでリングに上がるのでしょう?彼はプロレス人気の高いメキシコの神父ですが、キリスト教教会からも批判を受けながらもリングに上 がるのは50人ものストリートチルドレンの子どもたちを生活のための資金を稼ぐ必要があるのです。

 フライ神父にインタビューした経験のある井上ひさしさんに次のようなクリスマスカードが届いたそうです。
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 「体がうまく動かなくなったので引退しました。今は七十人にふえた子どもたちの世話をしています。私たちの家で育った子どもの中から、八人もプロレス ラーが生まれて、それぞれきちんと送金してくれます。寄付も集まってきていますから、まだしばらくはこの家をつづけることができるでしょう。メリークリス マス」
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 不幸な子どもたちを必死で守っている大人の話をもう一つ紹介します。
 数年前、熊本の慈恵病院が始めた「こうのとりのゆりかご」(通称:赤ちゃんポスト)が騒ぎになりました。塩崎恭久官房長官(当時)などは「赤ちゃんの遺 棄を助長する」などと聞いた風な発言がありましたが、最近あまり見聞きしません。

 井上ひさしさんはヨーロッパの同様の施設を取材されたことがあるそうです。フィレンツェの「無垢(むく)な子どもたちのための病院」の設立趣意書には 「ここに受け入れられている子どもは可哀想な捨て子ではない。この子どもたちはフィレンツェ共和国の未来そのものである」(引用)書かれたいるそうです。
 子どもを手放さなくてはならないのを一人の親の道徳観や個人の責任にしてしまうわが国を施政者となんと大きな違いがあるのでしょう。

 赤ちゃんポストから赤ちゃんを預ける母親が受け取る手紙が紹介されていますので引用します。

 ドイツのバルトフリーデ病院の手紙
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 赤ちゃんのお母さんへ。
 あなたが赤ちゃんを預けたのは、決して軽い気持ちからではないことを、わたしたちは十分に知っています。わたしたちは力の及ぶかぎり、あなたの赤ちゃん のお世話をさせていただきます。わたしたちの力の及びかぎり、あなたの赤ちゃんのお世話をさせていただきます。どうか安心してください。
 もし、もう一度、赤ちゃんを引き取りたいときは、いつでも連絡してください。いっしょに暮らせるよう、よろこんでお手伝いします。
 そのために、この手紙をしっかり持っていてください。手紙の中に記されている番号は秘密の番号です。あなたと赤ちゃんだけの番号です。あなたが赤ちゃん の母親であることの証(あか)しです。いつか子どもが大きくなって、「お母さんがだれか知りたい」と、そう願ったときの大切な手がかりです。
 最後に、お子さんに伝えたいことがあれば、いつでもご連絡ください。よろこんで伝えるお手伝いをします。お元気で。(NPO法人円ブリオ募金センター 訳)
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 長い引用ですが、ドイツのNPOシュテルニパルクの手紙

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 お母さんへ。
 だれにでも助けが必要なときがあります。いまあなたは助けが必要なのではありませんか。よければいつでも相談に乗ります。産後の経過はどうですか。わた したちの助産士をいつでも利用してください。わたしたちはドイツ中の医者や病院を知っています。匿名(とくめい)で、無料で診(み)てもらうことができま すよ。
 あなたの赤ちゃんは病院の検査を受けたあと、八週間、里親のもとで愛情をもって保護されます。その八週間のあいだに、あなたは、子どもをどうするか決め ることができます。
 時間はすべての傷を癒(いや)すことはできませんが、。それでも少しは癒してくれるはずです。あなたが望むなら、わたしたちのところで、赤ちゃんといっ しょに匿名で、無料で住むこともできますよ。
 赤ちゃんの写真がほしいときは電話してください。わたしたちはあなたといっしょに問題を解決するために二十四時間ここにいて、いつでもあなたのもとに駆 けつけます。
 あなたのしあわせをお祈りしています。どうか、がんばってください。
--------------------(引用)


 豊かさって何でしょうね。
 子を手放す母親に一言も責めることなく母子の健康を気遣う社会と、知ったかぶりに道徳を説く社会とどちらが豊かでしょうか。

◆経営者
 今朝、インターネットでTBSラジオを聞いていたら法政 大学教授の坂本光司さんが電話インタビューで出演されていました。インタビューの中で愛知県にあ る樹研工業という会社の経営が紹介されていました。
 採用は先着で決める、定年はない、給料は年齢によって決まる、病気で入院した社員に亡くなるまで給料を払い続けたなど社員を大事にするウソみたいな会社 があるそうです。坂本さんの
著書「日本でいちばん大切にしたい会社」には他にも社員を大事にしている会社がいろいろと紹介 されているそうです。

 この本でも「二十万円の元手で始めた店が、地元のみなさんや県内外のお客さまのおかげで持ちこたえ、そして大ききなった。これまで買い支えてくださった 方々にそのご恩をお返しするために、どなたでも入ることができる図書館と体育館と劇場をつくることにしました」(引用)と、会社の株式を上場しその創業者 利益を投じた経営者が紹介されていました。

 その図書館には井上ひさしさんの蔵書6万冊が収められ「遅筆堂文庫山形館」と名づけられたそうです。

 山形の洋菓子屋シベールの創業者熊谷眞一さんです。シベールは大阪梅田の阪神百貨店にも出店していてラスクが安くて美味しいので自家用や手土産によく利 用しています。

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 ここにあるのは美談ではない。「熾烈(しれつ)な商戦を通して、自分のことと他人のことを同時に考える人たち」も、じつは少なくないという事実である。 日本の商人もまだまだ捨てたものではない。
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 まだ、紹介したいこともありますが、またの機会にします。

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